みんなでつくる自己実現
誰かのために何かをやる方が力が出る
約4年前の2020年に海士町に移住して“風と土と”にジョインした。それまでは東京にある社員4万人ほどのいわゆる大企業で働いていた。転職して一番驚いた自分自身の変化は、「誰かのために何かをやる方が力が出る」ようになったこと。
自分や自社を中心にしてやりたいことがあるのではなく、誰かを中心にして自分のやりたいことが生まれる感覚。「誰かのために」というと利他的、自己犠牲的、フォロワー的に思うかもしれないけれどそうではない。あくまでやりたいことの手綱は自分が握っている。
例えば、海士町町長である大江さんが語った「海士町の原風景を残したい」という言葉を聞いて、すごく素敵だなと思って自分に何ができるかを考える。ひとつは風と土とが産業の一端を担って雇用を生みながら経済発展に貢献できるよう会社を強くすること。離島という土地柄、補助金に頼らざるを得ない側面はあるけれど、町が自立するために島外からのお金を島内に循環させることが役割の一つだと思っている。
会社を強くするために株主に出資をしてもらった。錚々たる株主のみなさんには3ヶ月に1回、取締役会を開いて経営アドバイスをもらっている。また、年1回は株主総会を海士町で開催して滞在中いつでもフィードバックをもらえる贅沢な時間を過ごしている。
個人的に多様な顔ぶれの株主に共通することは、行き過ぎた資本主義の先にある次の社会への希望を見出そうと実践していること。この価値観が根っこで共有できているから、変な話だけど、株主である柳澤さん、英治さん、直樹さん、鶴さん、水谷さんの実現したいことが、僕自身や風と土との実現したいことにも繋がっている。株主と会社で対立するのではなく、経営能力を問われる適切な緊張感を持ちながらも、志を同じくする同志が共に自己実現をするために応援し合える関係性としての株主という存在になっている。
顔が見えることが関係性をつくり、育む土壌になる
誰かのために何かをやる上で、顔が見える関係性というのは前提となる。知らない誰かのためにがんばろう!と言ってもなかなか力は出にくい。また、ただ顔見知りであるというのも弱い。その人を価値観レベルで理解して初めて「顔が見える」と言える。
では、価値観レベルで理解するためには何が必要なのか?一つは会う回数、一つは話す時間だと感じている。会う回数に関しては、人口2,200人の海士町は大きすぎず小さすぎず最適なサイズだと思う。東京では隣に住んでいる人ともほぼ会わなかったけど、海士町では町を歩けば必ずと言っていいほど知り合いと会う。笑い話だけど海士町では散歩することが難しい。歩いていると、「乗ってく?」と誰かが車から声をかけてくれるからだ(笑)。
日々、地元の色々な人と会うが、その中の一人が海鮮料理屋「味蔵」の大将・宇野さん(まーさんと呼んでいる)。味蔵にご飯を食べに行ったり、まーさんが釣りに行く船の前でもよく会う。一緒に釣りに行かせてもらったこともある。実はまーさんは、誰もが申請することができる“海士町未来投資基金”において第一号採択をされた人。これはふるさと納税を原資にして海士町の未来に繋がる新規事業を生み出すという取り組み。なぜ申請したのか?と聞いたら、「UIターンを増やしたい。そのためにはこんな面白い仕事ができるんだぞ、という背中を見せることしか自分にはできない」と話してくれた。
かっこいい大人だなぁと思い、僕自身としても会社としても面白い仕事を増やして一緒にUIターンを増やすことに貢献したいと強く感じた。そして改めて、『世界標準の経営』の著者・入山章栄さんに監修頂いている次世代リーダー/経営者候補向けの研修プログラム「SHIMA-NAGASHI」を社員全員で磨き続け、英治出版と提携して生まれた出版社である海士の風を育てようと誓った。
会う回数が多いと、その人の色々な顔が見える。仕事だけではなく祭りや綱引き大会などのイベントや飲み会での顔、家族といる時の顔も見える。一人の中にある多様な顔が見えるとその人の価値観が浮き出てきやすいのだと思う。
話す時間に関しては離島という地理がとても良い。島外からお客さんが来る場合は、交通の便が良いとは言えないので、一度来たらよほどのことがないと1泊は泊まらざるを得ない。多くはせっかく遠くまで来ているのでと最低2泊する。そうすると、その人と語り合う時間がたっぷりある。
例えば、『イシューからはじめよ』『シン・二ホン』の著者である安宅さんが来島された時もじっくり話すことができる幸運に恵まれた。安宅さんの価値観が少し見えて大好きになった。安宅さんが取り組んでいる活動の一つに、「都市集中型の未来に対するオルタナティブ」をテクノロジーを賢く使い倒すことで作り上げていこう」という風の谷の活動がある。その考え方に大共感したことは色褪せることなく今でも鮮明にこの時の感情を思い出せる。
夜、飲みながら安宅さんと話していると「何をするにもその土地の記憶に根差すことが大事」ということを聞いた。また、「社会インフラコストを考えれば人口密度との相関関係から都市集中型シナリオにならざるを得ない」という話もあった。
そして、「一方で、日本の文化や歴史は地域から始まっている。その地域が消滅するのは避けたい」という想いを聞いて、自分自身もその実現に向けて何かやりたいと思い、前述した「SHIMA-NAGASHI」では、北前船時代には貿易の要所であり人々が交流する地であった海士町だからこそ交流が生まれる“複数社混合”とし、また、資源が少ない離島だからこそ論理を超えた共感でよそ者を集める必要があった背景から“心を動かすリーダーシップ”を掲げることにしている。
みんなでつくる自己実現
誰かの何かのためにやることが、結果的に自分がやりたいことに繋がる感覚を海士町に来て、風と土とにジョインして感じることが多くなった。島内の人も、島外の人も、もっと言えば、SHIMA-NAGASHIに参加してくれる参加者や送り出してくれる人事担当者や役員、海士の風から出版している著者もその人の自己実現と自分の自己実現の境界が限りなく薄い。薄いというかは、一緒につくっている感じがある。
ふと、そう考えた時に「みんなでつくる自己実現」という言葉が自分の口から出た。それぞれの自己実現をみんなでつくるような感覚。そういえば、僕が風と土とに入ったひとつのキッカケは社名だったことを思い出した。
「風の人(よそ者)と土の人(地元)がともに風土をつくる」という想いが込められた社名。「風か土か」ではなく「風と土と」。人と人とかが行き来する交点に、人口調整局面に入っている日本における希望を見出したのかもしれない。一人勝ちしない社会の姿を、海士町に籍を置く風と土とから実践することが、今、自分自身がここで働き続けている大きな原動力になっている気がする。
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