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(138) 隙あらば・・・

隙あらば冗談のひとつもとばしたい人っている。そんな人のとばす冗談がなかなか面白くて、つい吹いてしまう。そればかりか、そのタイミングたるや絶妙である。そんなタイミングを虎視眈々と狙っているなんていう人生の楽しみ方ってちょっとばかり粋である。きっとエネルギーが高く、好奇心旺盛な人に限られるだろうと思う。

その「隙あらば・・・」だが、”隙”が大きな問題となり、私たちを悩ませることがある。家具の隙間にホコリが溜まっているが、掃除機のノズルが入らなくて気になり眠れない・・・。これも”隙”に関わることだが・・・今日はそういう話ではない。

何人かで雑談の真っ最中である。誰かが夢中で話していてひと通り終わると、さあ今度は私の番だからとばかり話し始める人がいる。別に順番が決まっている訳ではないのに、切れ目なく話が続き盛り上がっている。そんな中、ふとした切れ目で次が出ない。大袈裟に言うなら沈黙の隙間ができる。人ってそうだが、流れが止まると今までと大いに違うものだから、流れを戻さないといけないとばかり何とかしなければと思う。責任感が強いのだろうし、流れが止まることが不安でもあるのだ。これは、ちょっとした工夫で何とかなるものだ。誰かが話をしたらいいだけのことだ。それとも、沈黙もいいものだと思えばいいだけのことである。

「私ってどこが変なんでしょうか?不安で不安で・・・。でも考えてもわからないんです」
「何かがありましたね。職場ですか?」
二十五歳、女性のクライアント。
「高校の時もありました。仲良くしている人たちが急に私を避けはじめて、訳がわからないから、どうして?と聞いても誰も理由を言ってくれなくて、本当に辛かったんです」
「と言うことは、今職場でその高校の時と同じようなことが起きているんですね」
「先生、何故それがわかるんですか?私を見てわかるんですね。やはり私、どこかおかしいのでしょうか?」
「いやいや、何か強い思い込みがあるのでしょうか、間違ったご心配をなさっていますよ。今職場で高校の時と同じようなことと私が言えたのは、あなたが、高校の時”も”とおっしゃったからに過ぎませんよ。それって、今もあるということになるだけのことです。ですから、余計な心配はいりませんよ」

高校の時から大学・職場と細かく話を聴くことに三ヶ月を要した。彼女はハキハキした女性であり、何事にも前向きで、エネルギッシュであり、コミュニケーション力はかなり高いだろうと感じられた。気になったことはひとつ。話の途中、私は今までの話をまとめて確認の為フィードバックして返すことにしている。その際、彼女はそれに興味を示さずスルーして、間を空けることなく自分の話を続けてしまうことだった。

「今の職場で、最近になって同僚のみんなから避けられているように思うのですね」
「はい。先輩も後輩も今まで仲良くしてくれていました。急になんです。私がみんなの中に入ろうとすると、パァーとみんなその場を離れてバラバラになるんです。これって私を拒絶しているんですよね。もうあの頃のようにやっていけないと思うしかありません。不安で不安で、眠れないから通院して薬をもらっています」

いつものように私はクライアントの話を聴き、その物語の歴史からその人の輪郭を組み立てて、言動の様式の仮説を立てることになる。三ヶ月でそれにたどり着けたのは、彼女が包み隠さず素直に思い出す全てのことを告げてくれたからに他ならない。その明け透けで素直であることは、大いにカウンセラーを助けてくれるのだ。後にそれは彼女を大きく変容させる原動力になると確信した。問題を抱えることになる道すじの仮説を、彼女に告げることが、分析することよりはるかに難しい。彼女も痛いだろうが、告げるこの私も大いに痛むことになる。

彼女は三姉妹の真ん中であった。姉は線が細くて頼りなく生活音痴なところがあった。両親はそんな長女を心配し、片時も眼を離すことはなかったと言う。三女は末っ子であり、年が離れていることもあってただただ可愛がられた。両親の眼は絶えず長女と三女に注がれた。彼女は幼い頃から、生活力、好奇心が旺盛であり、何もかもひとりで出来た。その上、聡明であり両親は何ひとつ心配することは必要なかったらしい。

三女が一年生に上がった年、長女は六年生、彼女は五年生となった。授業参観日、心配だからだろう両親揃って参加したという。姉、妹の教室で参観したが、彼女の教室には来なかった。家庭では、姉と妹の名はよく呼ばれたが、彼女の名は呼ばれることはなかった。肯定的な支持や激励を両親からもらうことをどんなにか願ってのでいかつであったか、いつもスルーされ、眼を合わしてもらうことさえなかったという。
「私を見て、私を心配して、私はここに居る、私にしゃべらせて」
と、彼女は心の中で叫び続けた。しかし、その願いは今日までずっと両親には届かないままだと彼女は訴える。

欠乏したストロークを何で補ったらいいのか、彼女はその空虚さを焦点を絞って一気に人との会話の”隙”・・・隙あらば我が身にそれを引き寄せ【私を見て】をやり始めたのだ。強引に一瞬の”隙”をも奮い【私はここに居る】を演じるのだが、決して満たされることなない。満たされはしないから、どんどんエスカレートして、人の話を奪い自身にストロークが向かうよう試み、
自身の話を繰り広げる。”隙”を奪い取ることになる。

「先生の説明よく飲み込めました。私には欠乏したストロークを欲しがって【私を見て】を、人の話を奪い取ってまでするんですね。人の話はスルーすると決めて・・・。私、やり直せますか?」
「もちろん大丈夫です。あなたなら出来ますよ。欠乏したあなたが欲しがっているストロークを、こっそり補いましたが、ちょっと大袈裟過ぎました。何で?どう人からもらうか考え直したら良いだけのことです。あなたの素直さと明け透けなところが、あなたを助けるはずですよ」

素直に自身のありのままを認めた時から、実は変容することは動き始めている。



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