(118) 情報と不安
私たちは日々、様々な情報に取り囲まれて、ともすれば見動きができない状態に陥ることがある。
例えば、良く聞く話になってしまったが、「国民一世帯あたりの貯蓄額が〇〇円に達した」という情報を得たとする。さあ大変だとばかり、それに満たない人は自分の貯蓄が平均以下だからということで、必死に節約してお金を貯めようとする。足元に火がつき、今を犠牲にしてでも貯蓄というなら、まだ健康な方である。極端なのは出費することが怖くなり、節約とばかり必要なものも買わず我慢し、不便・不自由な生活をする。その上、今まで貯蓄できなかった自分を「能無し」「ダメ人間」と決めつけ、散々に自分を責めたりすることになる。片方では、まだまだ不足とばかりに財テクに血眼になったりする。
「友達は多い方がいいですよ」
「学歴は高い方が良いに決まってますよ」
「田舎ではダメです。都会に住んで一流企業に入らないと・・・」
「時計はロレックス、車はやっぱりレクサスですね」
私たちの周りにはこんな情報が、出処が明らかにならないまま、ひとり歩きしている。それらの情報は、大した意味などなくて無責任な言い草に過ぎないのだが、どうも反応してしまい、「世間の平均値」あたりにいないといけないか?足りないか?と思ってしまうところが辛い。
「ワイン?一万円あたりは飲まないよ。結局、安物買いの銭失いって言うの?」
こんなセンスの奴らは私の前にはいない。しかし、友達たちの周りにはいるから、望んでいないのに話を聞くことになったりする。
「♪お酒はぬる目の燗がいい。肴はあぶったイカでいい・・・」
と舟唄で歌っているだろ・・・。
「この舟唄の世界観を、君はどう思う?」
なんて言ってやることになる。
「一万円以上のワインを飲み、クラッカーの上にはキャビアでも載せて、腕にはロレックス」
こんなのも身近な情報のひとつだが、少しも動揺しないし、私もそうしなくては・・・などと思わないものだ。
「こんなことで劣等感を埋め合わせ、少しばかりの優越感を味わうとは下品な奴だ」
などと思ったりするに過ぎない。
これは、その情報が私たちの中に入った時、”情報の位置づけ”をきっちりと私たちがするから、”価値づけ”がなされ”不安”を煽るようなことにはならない。
そうなると、情報に振り回されない為には、その情報の”位置づけ””価値づけ”をすることが大切だということだ。それらを判断するために、私たちが「何を大切に、何を求めて」生きているかを明らかにしておく必要があるということになる。
”人間”だからということだろうか?
”弱さ”を持ち”怖がり”ながら生きている。
急な階段を上る時、必ず手すりが用意されている。私たちは無意識でその手すりを持ち安心して急な階段を上ることが出来る。それと同じである。”弱さ”を持ち”怖がり”ながら生きている私たちは手すりを持ち階段を上るように、「人生の階段」を、「平均値との比較」を手すりにして無意識に生きようとしているなら、神経質に周りを見回して、大いに「平均値」という物差しで自身と周りを観察してしまうことになる。「平均値」に価値を置くから、それ以上かそれ以下かにこだわり、決して安気になれないのだ。
”不安”の大きな人は決まってネガティブな思考をすることが相場だ。怖いのは、そのネガティブな思考は、ネガティブな情報を引き寄せるということだ。全体が”不安”でネガティブであって、ネガティブな情報を引き寄せるとなると、負のスパイラルに巻き込まれた状態になってしまう。
”不安”を持ち、様々な情報に囲まれて生きている私たちは、出来るだけ”解像度”を上げる生き方をしていかないと、それこそ身動きが取れなくなってしまうことになる。聞きなれない”解像度”だが、次のような四つのことである。
「深さ」の視点を磨くこと、その為には”何故”と問い掛け、ものの原因や方法を細かく具体的に掘り下げること。
「広さ」の視点を持つために、自身の興味の枠を広げ”好奇心”を持って探索し、コミュニケーションで広い”視野”を保つ工夫をする。
「構造」の視点を持つとは、「深さ」「広さ」の視点で見えてきた要素を、意味ある形で分けて、要素間の関係性やそれぞれの相対的な重要性を掴むこと。
最後には、「時間」の視点である。
これには”想像”するということが大切になる。時間の流れの中で変化すること、その変化の因果関係であるとか、物事のプロセスや流れを捉える”想像力”が重要となる。
難しい課題となるが、上記の四つの視点は”解像度”を高めるための課題と言える。それらの”視点”を持つことが、状況や課題、次に行うべき打つ手が鮮明に細かく見えることになる。言い換えるなら、「見通しが良くなる」ということになる。
”不安”なまま「情報過多」の中にいる私たちは、圧倒され身動きが取れなくなることなく生活したいから、せめて少しだけ知恵を働かせるとするか!
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