YSL BEAUTY リップスティックの広告キャンペーンに感じた違和感
先日、YSL BEAUTYで購入候補のリキッドルージュを数種類タッチアップしてもらっている時に、目の前の大型デジタルサイネージに、カイア・ガーバーが主演する、人気リップスティックのひとつ“ヴォリュプテ シャイン”のキャンペーンムービーが繰り返し映し出されていました。何度も何度もその映像を観せられている間、言葉に表せない小さな違和感が湧き上がってきました。
お目当てのリキッドルージュ“タトワージュクチュール”を購入しその場を去った後もずっとこの違和感は何だろう?と考えていたのですが、カーラ・デルヴィーニュを起用したDiorのリップスティック“Be Dior Be Pink”のムービーを観てようやく分かりました。
フェミニズムやLGBTを含めたダイバーシティが当たり前の考え方・態度のあり方のひとつとして広まるなか、そうした考え方のリーダーシップを取っていると思っていた欧米の大規模ビューティー事業会社であるYSL BEAUTYが、いまだにメイクアップを「自立した女性自身」のものとしてではなく、「男性の存在ありき」あるいは「男性の存在の隣にあるもの」として描いている(ように見える)ことに、私は違和感を抱いたんです。
考え過ぎかな?とも思ったのですが、同クラスのCHANEL、DIORのリップスティックキャンペーンと比較すると、YSLのキャンペーンムービーはやや前時代的な視点に捕らわれた古いストーリーに私には見えます。
“YSL BEAUTY ROUGE VOLUPTE SHINE”
https://www.youtube.com/watch?v=4HT0_XakAoM
白人イケメンバスドライバーと恋に落ちてバスを降りるのではなく、リップを塗ってあげたアジア系男性(彼がストレートなのかそうでないのかは謎)の手を取ってカイア・ガーバーがバスを降りるのはダイバーシティの時代を踏まえた新しい展開かもしれませんが、それ以外は終始男性(イケマンバスドライバー)の視線・存在を気にした表情や動きで表現されています。
ちなみに、カイア・ガーバーは1990年代を席巻したスーパーモデルのひとり、シンディ・クロフォードの娘です。
続いて、カーラ・デルヴィーニュを起用したDiorのリップスティック“Dior Addict Stellar Shine”のキャンペーンムービーです。
“Dior Addict Stellar Shine - Be Dior Be Pink ”
https://www.youtube.com/watch?v=pMQZmo9eY84
カーラ・デルヴィーニュは、自身がセクシャル・フルイディティ(好きな相手の性別が流動的で、その時々の相手によって変わること)をオープンにしていて、2019年6月現在、女優のアシュレイ・ベンソンと交際中であることを公式に認めています。そんなカーラ自身の生き方は別にしても、Diorのこのキャンペーン動画は、男性への媚やウケをまったく表現しておらず、自分を強く見せたりかっこよく見せたり可愛く見せたりする主人公を、シンプルに美しく楽しく映し出しているだけです。
最後に、リリー・ローズ・デップを起用したCHANELのリップスティック“ROUGE COCO FLASH”のキャンペーンムービーです。
“CHANEL ROUGE COCO FLASH CHANEL THE FILM ”
https://www.youtube.com/watch?v=hGk6CO3CVcQ
CHANELのリップスティックのキャンペーンムービーにも、男性はまったく登場しません。リリー・ローズ・デップが数多いリップスティックから好みの色を選んで唇に乗せると、もう一人の彼女が登場してリップをバトンタッチ、そのリップはまた別の色になっていて、さらに別の彼女が登場して好きな色のリップを選びます。最後はいろいろなファッションに包まれたリリー・ローズ・デップが次々に現れドアの向こうに消えていきます。主人公の女性にはいろいろな色があって、好きな色を選ぶことができる楽しいストーリーになっています。
こうして比較すると、やっぱりYSL BEAUTYのキャンペーンムービーには古さを感じてしまいます。メイクアップや香水(女性用香水のキャンペーンは男性の存在がもっと顕著)の広告に、いまだに(特に恋愛相手として)男性の存在や視線が表現され続けているのは、「メイクや香水は男性に好かれるためにするもの」という一部の人が持つ前時代的な固定観念を助長するだけだと思います。もちろん、こんなことを書いている私にさえそういう面もありますが、それがすべてであったりそれが多くではない、ファッションもメイクも何よりも自分が楽しみたいからしている女性が多いと思います。りゅうちぇるのような男性でも同じことが言えると思います。
たかがコスメのキャンペーンかもしれないですが、こういうところからも少しずつ変わっていけば、みんな選ぶことができるんだということが広がればもっといいのにな、と思った出来事でした。
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