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中村不折の龍眠帖の挿し絵
李公麟山荘図20首 蘇轍
2024年 令和6年 甲辰年
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龍眠山は清浄な水につつまれている
ここで龍がかすかに声をあげるとあたりには雲雨がたちこめる
この建徳館に隠棲する李公麟こそが
清らかな風をもたらす主人であることが分かる
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ここ墨禅堂では何ものにも捕らわれることのない自由な悟りの道を体感できて
いつも外物と一体になってすべて清浄なる禅の境地に浸ることができる
一塊の墨からどのようにして伸びやかであったり縮まったりしながら描き出される
見事な山川の世界が生み出されるのであろうか
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仏の口から説かれる教えは、波瀾の翻るようにさまざまの様相を見せるものであって
最初から一定した心に迷いのない禅定の境地などありはしないのだ
その禅定の境地を絵に描いてみせるのも
仏の本性にかなうのではないだろうか
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清らかな谷川のほとりに稲が植わっている
秋も末のころとなって稲は雲と連なるようにして熟した
収穫したものをうすづくを見るのを待たないでも
秋の風のなか、穀物はもう十分に約束されているのだ
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山の樹木が開けたところに路が次第に姿を見せるようになり
山から小川が流れ下ってやはり川を作りあげている
旅人がここ発真塢で休息することができれば
真実の意が初めて心安らかななかで了解されるであろう
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山の住まいは華やかさとは程遠いもの
ここキョウ茅館(きょうぼうかん)には茅を引いてきて清浄なる屋室が結ばれている
ここでは世俗の塵を受けることもなく
隠逸の生活を送る李公麟も新たにその恩恵に浴している
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小川の流れが岩の割れ目に出合い
多くの細い筋となって流れ下り見事な水の網を作り上げている
その水を阿弥陀如来を荘厳する瓔珞に見たてるならば
山が阿弥陀如来のお姿ということだ
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石室はがらんとしていて主人の姿は見えず
浮雲だけが勝手に行き来している
山外の俗界には今頃春の雨がたっぷりと降っていることだろう
帰ろうとすると風にのって雷の音が聞こえてきた
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世の中の道徳は粉々になってしまったが
道理さえ貫き通せば道徳に違うというわけのものではないのだ
この山川の自然に何があるのかといえば
平生の生活が間違いであることをいつまでも感じさせてくれることだ
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万物を生育させる春が長くは続かず
すぐさま木の葉が枯れ落ちる季節になることをあなたと共に恨めしく思ってきた
ここ延華洞で仙界の様相を一見することによって
世間の俗悪であることがまことに理解できた
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両岸に岩がそそり立ち門の形を成しているここ澄元谷には陽光は差し込まず
谷川の淵の鏡のような水面に月がいつでも光を投げかけている
風がわずかに谷間を渡っていく
対象となるものをじっと見つめることによってそのものの心持ちがわかるというものだ
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巌に咲く花はつかんで手元に引き寄せることはできない
花蕊が空中に飛んで長く地上に落ちないのを見ているうちに
突然、世俗を避けて隠棲するあなたの前に降ってきた
あなたが虚無の世界を観察しつつ座禅しているのを知ったことだ
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重なり合う崖から滝が流れ落ち
微風に枝を揺らしている高い樹木は、まるで水に浮かぶかのごとくである
この泠泠谷に住む人たちに琴や筑の楽器を送り届けて
家々から演奏が聞こえるようになると、すばらしい座興となるだろう
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白玉のような龍が昼間に谷川の淵で水を飲み
長い尾を石の壁に掛けている
世俗を避けてここに隠棲するあなたが谷川に下りて龍の姿を見ようとすると
晴天から氷雨が降り注ぐことになるだろう
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崖に寄りかかるようにしてまるで緑の屏風を開いたかのような樹木の繁みが広がっており
谷川の淵に臨んで苔むした岩が横たわっている
ここには誰も俗人はいない
あなたはこの観音巌の興趣をもう会得されたのだろうか
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まだ垂雲沜を見ないうちは
家へ帰る思いなどどうしようもない
山路のつきたところで両足がすっかり熱くなってしまった
垂雲沜の水が私の疲れた足を癒そうとしてわだかまる岩の上を洗うようにして流れている
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乗ってきた馬を置いて大きな岩の間を徒歩で行くと
岩の前に平らな場所があった
肉や野菜を竹籠から取り出して食事をとると
粗末なもので腹を満たしても余味がある
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こんもりとした宝華巌が
珍しい樹木に幾重にも覆われている
帰宅すれば古代の鼎を手に入れて
ここ宝華巌のわきを流れる谷川のほとりの緑の草を摘んでいって粥を煮てみよう
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青い岩壁はまるで精錬した鉄を立て掛けたようであり
その岩壁に懸かっている滝は天人の礼装の帯を流しているかのようだ
この山に来てもう長い間景勝を見物してきた
まだここに来たことのない人たちに紹介しよう
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谷川が深いのでそこに住む亀や魚は思うままに振る舞っており
鋭く切り立った岩場には椿や楠が固く根を張っている
あなたの木蘭の船を借用して
私がわらぐつを履いて歩く苦労をやわらげたいものだ
終
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