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青春漫画抄(昭和)⑨


*《 上京に向けて・1 》


残りの高校生活の中で
私は当然ながら上京する手立てと向かい合っていた。

最初の目標としたのは「桑田次郎」だった。

『まぼろし探偵』『月光仮面』『Xマン』『8マン』・・・
日本中の子供たちを虜(とりこ)にした、漫画志望者にとっては
神ともいうべき大先生である。

部屋にあった大人向きのちょっとHな単行本のタイトルは
アンドロイド・ピニ』。本のあとがきに作家の平井和正さんの文章が
あって「桑田次郎は日本一絵が上手な漫画家で、難度の高いアシスタント
獲得に苦労していて、正直、なれる人がいないのではないかと思う。」
といった内容が書かれていた。

それなら・・・「俺がなる!!」と決めた。


その時代は著名人の住所も容易に知る事ができたので
アシスタントにしてください!!」との
情熱の手紙を私の描いた絵と共に先生に送った。

ほどなくして分厚い手紙が私の元に届いた。
差出人は神様の桑田次郎である。

ドキドキしながら手紙を手に取り読み進めると・・・
人物らしきポーズの走り描きのある一枚の便箋と対面した。

なんじゃこりゃ・・・?!

そして、その絵の脇に書かれてあった一文は・・・

私のアシスタントになる場合
この状態から私の絵を完成させなければなりません

・・・圧倒的に絶望するしかなかった。


そんな折、とある雑誌の片隅で『ちばプロダクション』が
アシスタントを募集しているとの記事を発見! 即、応募した。

ちばてつや」は私の一番好きな漫画家だった。
『ユカを呼ぶ海』『ユキの太陽』『誓いの魔球』『123と456』・・・

中学生の頃は『紫電改のタカ』『ハリスの旋風』が大好きで、祖母の家に居候の身でお小使いも少なかったので「少年マガジン」も買えず。幸い、隣の家に住んでいた仲良しの同級生の松井君がいて、発売日のその日に時間を見図らって借りに行った!松井君は呆れながらも貸してくれて・・その本の運命は、私の手によってバラされて、必要部分を抜き取られ、後に針金で綴じられた『紫電改のタカ』特集本等に変身していったのである。

ちなみにその製本達の一部は、50数年を経てなを、今も私の本棚に神々しく鎮座して居る。私の非の全てを払拭して浮かばれたに違いあるまい。

余談だが、松井君の買っていた「少年サンデー」の運命も同様であった。(そこでは横山光輝の『伊賀の影丸』、関谷ひさしの『イナズマ野郎』等、私の手により、製本化されたのであった。)


そして・・『ちばプロダクション』からの返信が来た!
少しイヤな予感がしていたが、それは当たっていた。

返信の内容は・・・

貴君の素晴らしい絵の技量に感嘆しました。ぜひアシスタントとしての仕事をお願いしたいのですが、在学中とのこと、当方は至急の人事を求めており、今回は残念ながら不採用とさせていただきます

文面は忘れたが、そんな事が書かれていたと思う。

またひとつ夢が断たれた。

(つづく)



     


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