
青春漫画抄(昭和)⑪


*《(番外編)とある少年の物語 》
道東の、四方を山で囲まれた林業の町で少年は産まれた。
幼少時より絵の才能を発揮し、描きたまった絵は町の公民館で展覧され
新聞にも掲載されて「天才少年」と、一時期、有名にもなった。
少年が五歳の時、両親が離婚して父方の祖母の家に預けられ
そこから町の小学校に入学した。
少年が二年生になる頃、父の再婚が決まり、少年は祖母の家を離れ
後妻を迎えた新たな地で暮らす事となった。
地方公務員だった父は忙しく、帰りも遅いので
ほぼ家に居ない人でもあった。程なく、新しい母は身篭り・・・
少年にとつて母の違う妹が家族となり
さらにその二年後に次女が産まれた。 だが・・・
少年が次女の顔を見る事ができたのは
出産から一ヵ月半も過ぎた頃だった。
同じ家で暮らしていたにも関わらず、である。
後妻が家を空けていた時
勇気を持って入る事を禁止されていた部屋に入り
初見したのだった。
かつて幼少の頃に町の展覧会に出品され
保存されていた少年の絵は
庭先の少年の前で後妻によって全て燃やされた。
少年は後妻の管理下、阻害されていたのである。
家での自由は禁止されて正座以外の座り方も禁止された。
「いただきます」「ごちそうさま」「いってきます」「ただいま」
それ以外の喋る事は、ほぼ叶わず、居場所は隅の物置部屋であった。
消灯時間は夜の7時。暗闇の長い時間が少年の友であった。
だが、綴じられた僅かな戸の隙間から、微かな光りを感じて・・・
少年は気付かれないように
学校の図書館から借りてきたいろいろな本を読んでいた。
北国の極寒の地。少年の部屋に火の気はなく
外と変わらぬ寒さの中で少年は布団に包まって身を守るしかなかった。
朝を迎えた少年の頭の周りの布団は厚みのある氷に満たされていて
少年が動くとバリバリと音を立てて砕けた。
*《 少年の記憶 》
少年には0歳からの記憶があった。
授乳の記憶も、タライで洗われていた記憶も、母の顔も・・・
様々な出来事も覚えていた。
記憶にある母と、境遇のイメージからか
少年がバイブルのように愛読していた本は
『家なき子』と『小公女』であった。
小学校の給食のコッペパンをそっと隠して持ち帰り
夜のお腹の減った時に・・・
小公女セーラの知恵のように、小人になった少年が
食べきれないほどの巨大なパンを、夢のような幸せの気持ちで
食すのである。
幸せがないのなら、幸せは自分の夢の中で創ればいい・・・!
少年の知恵でもあった。
我が家の筈であるその家に少年の居場所はなく
妹たちと会話する機会もなかったが・・・
遠くから、妹たちとの笑い声が響く家族の団欒の様子が聴こえてきたり
微かに聞こえるテレビの連続ドラマの音声を楽しみにもしていた。
父の転勤で数度の転校も経験したが
どの地でも少年には友達ができて、家での会話の無い分
外では普通に笑い、大きな声で会話する
ごく普通の少年でもあった。
小学六年生の冬、たまたま訪れていた祖母が
すでに寝ているはずの火の気のない少年の部屋に入ってきた。
そして、凍っている少年の布団に手をかざし・・・
小さな声を漏らした祖母の気配を寝たふり少年は感じていた。
(だが実際には祖母の手が近づいた時、
少年は知られまい!!として祖母の手を振りほどくように
身を捩(よじ)った!
少しも可哀想なんかじゃない!!との、少年のプライドだった。)
後妻の反対を押し切り、少年は再び祖母の家に招かれて
中学校に入学したのであった。(番外編・完)
*《 ある少年の番外エピソード・1 》
小学2年。
父の再婚で北見の小学校に転校してきて早々、春休みの宿題として
提出していた絵が返された休み時間、教室内が騒ぎとなっていた。
転校してきた少年の周りを数人が取り囲み・・・
「この絵は誰に描いてもらった?! おまえが描いたんじゃないべや!!」「こんな絵・・・子供に描けるわけないべや!!」
少年が描いていたのは、父の働く河川の作業現場で寝泊りした時に見た
トラックの絵だった。
だが、絵の授業が始まって、少年の描く絵を真近で見た同級生たちは
少年に謝った。
「ごめんな!・・・すごいなおまえ!!」
「オレたちが悪かった!!・・・なかよくするべや!」
(つづく)

