見出し画像

『 秋の空時計 』③ #毎週ショートショートnote

*秋野 空・・・秋の空


秋野 空。
それが新人の名前だった。

海外のIT企業本部からの出向社員ということだった。
我々の会社のセキュリティ部門に配属された。

私が指導係を担当したのだが、彼にはその必要もないくらい
全てを完璧にこなした。ただ、心にもなさそうな《笑顔》が
どこかアンドロイドめいていて親密感は得られなかった。

仕事の全てを異常ともいえるな速さで完璧に捌く彼に
同僚の誰もが驚愕し、質問もしたが・・・
彼には日常でしかない例の《笑顔》を返すだけだった。

親交を深めようとの飲み会の誘いにも応じることはなかった。

彼の会社での行動は、まるで《電子時計》のように正確で
僅かの齟齬でさえ無縁に思えた。

プログラマーとして彼の構築した新システムは、それまでの
会社の効率を一新する・・・我々の誰もが理解できないレベルの
革新的なものだった。 


1年後・・・
任務を終えたかのように彼は会社を去った。

世の中にはあんな人間もいるのだと・・・同僚とも噂したが、
とあることで海外の本社に彼のことを問い正した時
驚愕の事実を知った。

彼は・・・会社には存在していないとの返答だったのである。

☆☆☆


【秋の空時計】


その呼び名で、彼は謎のままに伝説となった。

なぜなら・・・我々の会社を含む広大な一帯が巨大地震に襲われた際、
我々の会社だけが無傷のままに、全てが瓦礫となった荒廃の地を
見下ろしていたからである。


彼はきっと、気ままな秋の空のどこかで・・・今でも
電子時計のような気質のままに生きているのだろうと噂された。

心にもなさそうな《笑顔》のままで・・・



【了】

(637字)


*このお話はフィクションであり、実在の人物、出来事等とは
一切の関係がありません。


*こちらに参加させていただいてます。
今回のお題は 『秋の空時計』
裏お題が・・・『腋の薔薇時計』でした。

#毎週ショートショートnote 
#毎週ショートショートnote・出品作・他
#シロクマ文芸部・参加作品

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?