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『壁に少々らっきょう』(裏お題) #毎週ショートショートnote

*帰郷


転職の間にと、ドライブで立ち寄った子供の頃に住んでいた故郷の地。
過疎化が進み、かつての農地も今は自然に飲み込まれている・・・
車を止めて、感傷に耽りながらかつての遊び場だった山道を歩いていた。

人が来ることもない道は藪で覆われていたが、先に進んだ。
遠くに・・・見覚えのある土蔵が見えたからだ。

あの土蔵の傍に《ラッキョウ》の畑があったことを思い出した。
遠い記憶が呼び覚まされる・・・

当時からすでに人が去り始めて、そのラッキョウ畑も放置されたままだった。子供だった自分は、思い付いた悪戯心から実行したことがある。
それは・・・

冬眠をしない《エゾリス》の餌の保存をマネることだった。
彼らは地面にだが、子供だった自分は・・・崩れた土壁の部分に土を詰めて
そこに、畑で育ったままのラッキョウを掘り出して《種球》にし、それを
植える遊びだった。そんなことも忘れたままに引っ越して
そのまま別の地で暮らすことになったが・・・

あの時の土蔵と再会したのだ。


信じられないことに・・・
土蔵の壁から数か所、伸びたラッキョウの葉が
枯れることもなく垂れ下がっていたのである?!

自分にとって、奇跡の光景だった!!

あの壁の中で、十数年にわたって生きてきたというのか?
そんなことが有り得るのだろうか?!

あの壁の中で・・・

今でも《ラッキョウ》が生きている?


確かめることさえ出来ないまま
ただ、過ぎた時を彷徨うように・・・

その場に立ち竦んでいた。


【了】

(597字)


*このお話はフィクションであり、実在の人物、出来事等とは
一切の関係がありません。


*こちらに参加させていただいてます。
今回のお題は 『スベり高等学校』
裏お題が・・・『壁に少々らっきょう』でした。

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