『木枯らしの日に』マフラーに・・・ #シロクマ文芸部
「マフラーに」から始まる小説・詩歌・エッセイなど
締切は12/15(日)23:59。
*参加させていただきます。 よろしくお願いします。😊
*木枯らしの日に
マフラーには憧れがあった。
《好き》の想いが込められた手編みのマフラーをプレゼントされる・・・
そんな男女の青春がブームだった時代もあった。
どうしてこんなところに?
冬枯れの木の枝に無造作に掛けられたマフラーが風になびいていた。
単に飽きて捨てられたのか思惑のドラマの流れで廃棄されたか
単に風に飛ばされてここに辿り着いたか・・・?
再会を願う持ち主がいるなら出会えることを願うしかない。
不意に、初めてマフラーを首にした日を思い出した。
☆ ☆ ☆
「どうしたの? 嬉しくないの? 手編みのマフラーよ?
苦労したんだから・・・もっと喜んで!」
「ありがとう。
オレ・・・今までマフラー・・・したことなかったから。」
「そうなの? じゃ、私が巻いてあげるね!」
社会人になって最初の冬を迎える前の寒い日に初めて・・・
付き合うようになった彼女からプレゼントされたマフラーが
オレの首に巻かれた・・・!
「温かい・・・マフラーって、こんなに暖かいんだ!?」
「私が編んだってことも忘れないでね!」
白い息の先の彼女の笑顔がまぶしかった。
子供の頃に暮らしていた北国の親戚の家で・・・部外者のオレの
着る服はお下がりの古服ばかりだった。
マフラーしている子たちは金持ちなんだと思っていた。
マッチ売りの少女が温かい窓の中の景色に憧れたように
その頃の小さいオレにはマフラーが憧れだった。
そのまま、マフラーとは縁がないまま社会人となって
ある日 唐突に
プレゼントされた手編みのマフラーが俺の首に巻かれた。
まるで・・・
オレの人生が 今始まったかのような思いに駆られた。
☆ ☆ ☆
マフラーのかかった木の傍にいるオレに向かって
遠くから手を振る妻と 小さい娘の姿が見えた。
白い息の先の彼女の笑顔は・・・
あの日から時を隔てた今も継続中だ。
【了】
(768字)
*このお話はフィクションです。