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青春漫画抄(昭和)⑲



*《 戦場にて 》


桑田次郎オリジナル作『大復活』・『ミュータント伝』
平井和正原作の『デス・ハンター』・・・

桑田次郎の後期代表作の作業に関わり、
締め切りに追われる日々の中で、
私の技術も次第に向上していった。


仕事の手順は、
先生が消しゴムの効く青エンピツで丁寧に下描きし、
キャラの顔にペン入れをする。
その原稿を私が受け取り、背景を含めた全てにペン入れする!

仕上げは奥さんの可愛い妹(注・私より年下)が
襖を隔てた隣の部屋で仕上げに入る。
(先生が襖を開けて原稿を渡す一瞬、私は妹を視界に捉える!)

(ちなみに先生は奥さんに対しては名前で呼び、
妹さんのことは「AKちゃん」。
妹さんは先生のことを奥さん同様に「次郎さん」と呼んでいた。)  

私は(次の原稿が来るまでにペン入れを終えるのだ!!)と、
横目で先生の進行具合を伺いながらペンを走らす・・・!!
先生はたぶん「私君より先に下描きを終えるのだ!!」と必死! 

先生は依頼の仕事を容量以上に引き受ける事もあって、
緊張感に満ちた職場は時に戦場と化す。

普通なら間に合わない締め切りの時もあり
アドレナリンが沸騰した我々はアスリートのごとく、
普段ではありえないスピードで作業をこなす超人に変身して
奇跡の完成を見る・・・!!

そんな日々の連続だった。 


とはいえ、締め切りに追われていない長閑(のどか)な日には
呑気な会話を交わしながら、ステレオのレコードの曲を聴いたり、
ラジオ番組やラジオの浪曲を聞きながら・・・
至極、楽しく作業を進めていた。


*『デス・ハンター』より。


*《 食卓にて 》


仕事の合間の食卓のテーブルで、向かい合っていた先生が
ふと漏らすように言った言葉が、今でも私の心に残っている。

「私が一年かかって覚えた事を一週間で覚えてしまう。
私君は日本で一番
絵の上手な漫画家になるかもしれないなぁ・・・!」

半世紀を超えた今に到っても、私は・・・

その時の先生の思いに何も応えてはおらず、
恩返しも出来てはいない。


☆ ☆ ☆


*《 戦場の実態 》 


今のブラック職場が長閑(のどか)と感じる程の
最も過酷だった作業体験を記したいと思う。

当時の私は、「決して弱音を吐かない」若者だった。
そのことを前提の上で。 


「パレスマンション」四階の一室が仕事場である。
窓には厚めのカーテン、陽は入らない。
和式の机の座椅子の上には敷布団が敷いてあり、
体力の限界時に横たわり仮眠する。

現場は、締め切りの乱打に立ち向かう戦士二人の図・である。

最も過酷だったのは、二時間の睡眠・起きて即・作業で約30時間。
2時間の睡眠・即・起きて30時間・・・2時間の睡眠で30時間・・・の
繰り返しのまま、締め切ったカーテンの部屋で陽の光も見ずに、
立ち上がるのは食事とトイレの一瞬のみ。

その状態のまま約一ヶ月半・・・


そんな職場を聞いたことがあるだろうか?

私の精神はピリピリした空気が砕けた瞬間、
爆発・崩壊しかねない感性に到り・・・
我々でなければ殺人事件も起こりかねない修羅場となった。

だが、奇跡に優しい私の感性のおかげで、
達成感の連鎖する悦びの職場の風景は
乱れる事もなく連鎖したのである。

そのことに感謝すべくは、神・桑田次郎である?! 
否、神も私もどうかしていた!!(笑)


そしてこの頃から、
私の反骨精神も目覚め始めていたのである・・・☆


( PS:超人豆知識 変身状態で時間に追われた作業に埋没している時、
タバコの煙が充満した部屋においても不思議と空気は清んでいる・・・
時々時間を確認するのだが、時計の針が止まったままで時間が進んでいないことがあった。不思議な感覚である。時間が止まったままなのだから、その間、普段の能力ではありえない仕事量も可能となる理屈である。謎・笑 )

(つづく)

( 〇この当時の桑田先生のインタビュー記事を、ツイッターにUPされてた方がおられました。)


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