#23 春を迎えられなかった恋
「シュン。駅に着いたよ?」
彼女に言われて我に返る
早く降りないと、扉が閉まってしまう。彼女に急かされ僕も急いで降りる
頭がボーっとしていた。なんとかっていう幸せホルモンが頭の中を駆け巡っていたんだと思う
「ボーっとしてると危ないぞっ」
彼女に言われてもなんだか、僕は上の空で
「そうだね」と冗談も茶化すことも出来ず
ただ、彼女と並んで歩く
生まれて初めてのキスだった。
「バスすぐに来ちゃうなぁ。あーもっと一緒にいたいなぁ…」彼女はバス停で、少しふてくされている
僕は「そうだね」と生返事しかできない
「なんかずっとボーっとしてるよ?大丈夫?」
大丈夫大丈夫、という会話しか覚えていない
気づいたら彼女はバスに乗り、僕は手を振って見送っていた
*
バイク置き場まで歩く
高架下にあるそこには僕しかいない、いつもなら学校の先生が見回りしてないかキョロキョロしながら足早にその場を立ち去るのだけど
少しバイクを押しながら自分の唇を触ってみる
違う…
こんな感触じゃない
頭の中でさっきの記憶を思い出す
(キスってすごいな…本当に甘酸っぱい感じなんだ
キスした時
嬉しいような、なんて言うんだろう…幸福感
というのかな)
当時テレビや本の中でそんな表現があったのは知っていたけど、これは確かに…何というか、甘酸っぱい感じだった
僕の場合、少しだけ違ったのはタバコの香りがする、ちょっとワイルドなものだった。
バイクに乗った瞬間なんだか、急に嬉しさが込み上げてきた
いつもの国道から一本中の道へ入る
僕は近くの海沿いを走って帰った
この日の風は冷たい
けど、それが心地くて…
それくらい興奮していた
夕日が綺麗なその道は
今日は曇り空
いつもひと通りの少ないそこで
僕は大声で叫んだ
あーーーー!!!わーーーー!!!
海沿いの、直線をアクセル全開で駆け抜けた
なんかの、青春映画で見たような…
なんで叫んだかわからないけど、嬉しさのあまり込み上げてくるものを出さずにはいられなかった
ニヤニヤしていたし、もしかしたら誰かに聞かれてたかもしれないけど、そんなことどーでも良くて
僕は遠く山から海へ向かって飛んでいる、あの鳥達のように
どこまでも、飛んでいけそうな気分だった
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