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詰将棋の作り方

まずは作ってみる

まずは,作ってみる。余詰・不詰・変長と闘って,作意を盤面に彫り上げる。不要駒はないか。もっと効率的な配置はないか。紛れや変化の味を濃くするか薄くするか。そしてまた,余詰との闘い。

できあがったら,それはあなたの作品第1号だ。他の人がその作品に価値を見出すかどうかは別の問題。大切に記録しておこう。

人に認められる,投稿したら採用される,賞をもらえる…..そういう作品を作るためには,どうしたらよいのだろう。

たくさんの詰将棋を解いたり,鑑賞したりして, 何がよい詰将棋なのかを考えることは,基本だろう。

もっとも才能のある人というものはいるもので,そういう人にとっては基本なんて関係ない。処女作が「双玉無防備煙」の大傑作なんて例もある。

凡人が良いものを作り出すには,かわりに何かを犠牲にする必要があるのかもしれない。例えば…….

7手詰を10年以上推敲する。(小林敏樹流)
女性にもてないヤリ場のない怒りを創作にぶつける。(山本昭一流)
ひたすら根性を出す。(伊藤正流)
浪人する。(有吉弘敏他多数流)
女房子供に逃げられる。(○○流)
就職もせずに四畳半で創作に没頭する。(○○流)
会社をツブす。(○○流)
新興宗教に入信する。(○○流)
危ない冗談は,これくらいにしておこう。。

私の場合は,田宮克哉先生の 3/100 理論「100局の駄作の中には 3つの好作がある。」を心の支えにしています。

20年で100局発表しましたから,このなかに3局は好作が入っているはず。すると,100局の好作を集めた作品集を上梓するには,あと660年はかかる計算になります。医学の早急な進歩が望まれます。

創作のきっかけ

1つの手筋を
ひとつの捨駒手筋でも気に入ったものがあったら, その筋を一番印象的に表現するにはどうすればいいのかを考えます。 7手詰という制限をつけたならば,王手は4回ありますが, 捨駒が可能なのは3回。そのどの位置に狙いの手筋を配置するか。 また配置は上辺がいいか入玉がいいか中段か。 向きはどうか?90度回転してみたらどうか。

収束から逆算
5手詰程度の短い作品から出発して, 手順の後ろの方から作っていきます。 実例2を参照してください。
実戦の終盤を参考に作る人もいますが,私はその方法で成功したことはありません。
逆算していく過程で狙いを付加していきますので, うまくいかないときはだらだらと長いだけの詰将棋ができあがります。

形から詰め手順を構築
適当に駒を並べたところから詰め手順を探していきます。 棋力のある人が初めて創作するのに向いているかも。 実例1を参照してください。

テーマを決めて作図
なにをテーマに選ぶか。つまりその作者がなにを面白がるかが 作風を作り上げる要素となります。 パズル性を追求する作家,伏線を巧妙に張る事に生きがいを感じている作家, 難解性が命の作家,初形の美しさ条件克服が楽しいのだという作家。 バラエティに富んでいるほど,この世界は豊かになります。 あなたは,詰将棋の何を面白いと感じるでしょうか?

もうちょっと具体的な話も書いてみましょうか。

3手・5手の習作をいっぱい作っておく

大駒1枚消える3手か5手くらいの作品を作りためましょう。 駒数はできるだけ簡素に。作品として仕上げるのではないので, 変化を膨らませようとか,紛れを増やそうということよりも, 駒数を少なく効率的に狙った筋を実現させることを目標にします。 これらが,作図の腕を上達させるだけでなく, 狙いの筋を付加する素材となったり,あるいは収束させる基礎知識となったり していきます。

妄想手順をいっぱい書き溜める

妄想手順は,要するに「こういう作意の詰将棋ができたらいいなぁ」 という手順。 どういう理論で実現可能かということは一切考えずに, 夢を膨らませること。 理論を考えるのは,後で良いのです。

作図のテクニック

創作の方法は人それぞれ,作品ごとにも違うものでしょう。

ここでは,創作ならぬ「作図」のテクニックとしてよくいわれる「正算式」と「逆算式」について説明してみます。

実例1 【正算式】

はじめにパラパラと駒をならべます。
今回はこの図でstart。
持ち駒はなににしようかなぁ。

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【作意】影も形も無し

たまには合駒を考えるものにしましょう。
13を埋めて,持ち駒に飛車を持たせてみます。
横から飛車を打って詰まそうというわけです。

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【作意】41飛,21間駒

飛車を打ったあとに,合駒を限定させなければいけません。
いろいろ試行錯誤しているうちに,33を埋めて,持ち駒に22に誘える駒を持たせれば,金合に決まることを発見しました。

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【作意】41飛,21金

そのあとは,どうなるか詰ましにいってみます。
持ち駒は角or金or銀です。
41飛,21金,同飛成は詰まないので, 33角成とやってみます。
すると,22の合駒はまた金が出てくるではないですか。

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【作意】41飛,21金,33角成,22金打

そのあと,進めてみると,持ち駒を角に決めたら,なんと持ち駒も余らずに,きれいに詰んでしまいました。
なんとラッキー!
いつも,こんなに簡単に完成したらいいのですけどね。

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【作意】41飛,21金,33角成,22金打,同馬,同玉,42飛成,32金打, 33角,12玉,32龍,22金打,同角成,同金, 11金,同玉,21金,同金,12歩,同金,21金 迄21手詰

このように適当に決めた初形から配置や持駒を変えていって詰手順を紡ぎ出していくのが正算式という技術です。正算なんて言葉は辞書に載っていませんが、この後説明する逆算の反対語として作られたのだと思います。

この作品、同一作を原島利郎さんが発表しています。ネット上に載せたのは筆者が先ですので、自作と主張はしませんが、このテキストでこのまま使わせてもらうのは許してください。詳しくは下のエントリーを。

実例2 【逆算式】

駒数の少ないきれいな5手詰を作りました。36にも利かせて逃げ道を塞ぐ初手の47角が狙いの手です。
この図をもとに逆算して手数を伸ばしてみます。

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【作意】47角,18玉,19馬,同玉,29金 まで5手詰

狙いの47角をカモフラージュするために, 38歩を配置してみました。
18銀,38玉,29銀,同玉で,この歩を消去する手順を追加しようというわけです。
ところが,このままでは 29銀に対して同玉とは取ってくれません。
49に逃げられてしまいます。

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【作意】18銀,38玉,29銀,49玉で不詰

そこで,安易ですが,49とを配置して逃げ道を塞いでみました。
すると,今度は18銀,38玉に対して, 47角で簡単に詰んでしまいます。
初手19金でも詰むようです。
不詰を消すと余詰がでてくる。
さて,この兼合いをどうつけるか。

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【作意】18銀,38玉,29銀,同玉,47角,18玉,19馬,同玉,29金 まで9手詰
ただし【余詰】19金,33玉,47銀,48玉,37角 まで5手詰

36馬は強力すぎるので, 73に遠ざけました。
するとまた逃げられて詰まなくなるので, 36角を配置しました。
47角の限定打を消すのは惜しいのですが,代わりに最後に捨てる角を序盤で打つ筋を狙っています。

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【作意】18銀,38玉,29銀,同玉,47角,18玉,19角成,同玉,29金 まで9手詰

さっそく,角を打つ手順を入れられるか考えてみます。
余詰・不詰の検討をしてみるとどうやらこのままで成立しているようです。

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【作意】73角,29玉,18銀,38玉,29銀,同玉,47角,18玉,19角成,同玉,29金 まで11手詰

引き続き,38歩も打つようにしたいものです。
「最初から配置された邪魔駒より,途中から出現する邪魔駒」です。
歩では角を取られて詰まないので,香を持ち駒に加えてみます。
さて初手38香に対する変化を詰まし,余詰を作らない配置を考えます。

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【作意】38香,46玉で不詰

59香程度でうまくいけば美味しかったのですが,さすがに強力すぎて余詰。
とりあえず,66銀を配置して完成図とします。

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【作意】38香,28玉,73角,29玉,18銀,38玉,29銀,同玉,47角,18玉,19角成,同玉,29金 まで13手詰

このように3手詰や5手詰からスタートして、手を戻していく方向で狙いを付加していく方法を逆算式といいます。

この図はここで完成としましたが、66銀が初手の変化にしか働かないのは印象が悪いので、この駒を利用した手を追加するのも一つの考え方です。ただし結局66銀は取り残されるのでその逆算は意味が無いと判断しました。

創作ノートは

創作ノートは,みなさんどんなものを使っているんだろう。。。。

田宮流
B5サイズの紙に図面と作意・変化・紛れなどを書き入れます。 修正・改良した ら端をのりづけしてその図面に重ねていきます。 つまり1作について1冊のノート(?)ができあがります。
この方法の長所は,履歴の閲覧が容易であること, つねに最新の図面が一覧できることです。
それらをテーマ別の袋で管理します。 はじめは,未発表と投稿中・発表済の3種類でいいでしょう。 これは,実際にやってみると,なかなかすぐれた方法であることが わかります。 特に作図初心者の方にはお勧めです。

ノート型
ノートに図面のハンコをべったり押したり,5mm方眼のノートを利用したり, 自分で版下を作って印刷したりして作ります。 これに時間順に図面を書き込んでいきます。
この方法の長所は,なによりも面倒くさくないこと。 分類したりせず,途中図でももっと原始的なメモでも 気にせずにどんどん書き込めることです。 いつでも持ち運びできるので,ぱらぱらと眺めているうちに 推敲する案もうまれてくるというものです。

パソコン管理
将棋ソフトで検討し,そのまま保存したディレクトリが 作図ノート代わりという形から,自分で管理ソフトを組んでしまう 人までいる(と思う)。
実は私も作ったのである(^^;;。 図面の入力はbasic,メンテナンスはeditor ,出力はgrepか, awk を通して TeX という簡単なものなんですけど。。 でも,これは管理にはいいけど,作図ノートの代わりにはならなかった。
家の中にあるパソコンがLANでつながれていて, ついでにモバイル型ともつながっていて, いつでも窓が開いているという状態にできるのなら, 可能かもしれないけど。(※20年前に書いた文章です)

頭脳型
全部頭の中。うーん,私もそーゆー高機能な頭脳が欲しい。


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