歌の力

歌う人を見ていた
その人の歌う声は祈りがこもっていた
歌を聴く人の未来を想って歌っていた
その声を真似て歌う人たちを見ていた
その人たちの声が、だんだん大きくなっていく
歌う人の声を聴いて
大きくなっていった
歌う人のように上手くはない
けれども祈りが声に乗って届いていた
祈りの輪が広がっていくのが分かった
すごい空間だなと思った
こんな空間を作り出している歌う人の声のパワーがすごいと思った

別に特別な神に祈っているわけではないのだ
聴く人の存在とその未来に向けて祈っているのだ
もうすぐお別れしなければならない寂しさと
この空間を手放さなければならないタイムリミットを惜しむ気持ちから
祈りが強い声になって空間を震わせていた
聴く人が耳を澄ませ、なぞるように歌った

いま思い出しながら書き残しておこうと思った
就寝時間はとっくに過ぎている
でも私は「今日」のうちに書き残しておきたかった

♩  ♩  ♩

ここ数日、自分自身の心の焦りから言葉を受け取ることが難しくなっていた
善意の言葉も時に刃になるが、心に余裕があれば防具で受け止めることができる
焦りのあるいまの私には難しい
防具を作り出す創造力がない

優しい言葉の中にあるその人の日々の葛藤を感じ取ってしまい、ぷにぷにのボールがガタガタの石になって

これはやっかいなことだけれども、
どうすることもできない
立ち止まる時間があればと
思いつつ耐えている

私は子どもの頃から耳鳴りを持っていて
また、音を捉える力もリズムに乗る力も弱いと自覚している
音楽が大好きだけれども
きっと音楽を全身で楽しむ力は弱い
耳鳴りが大きい時や長い時は音楽を聴くこともない

歌う人と歌を聴いて歌っている人たちの声、姿は、ずっと私にとどめておきたいと思った
歌う人のまなざしを忘れずにいたいと思った

自分の状態が悪くなったときは
思い出してみたい

歌う人の声と

握ってもらったおにぎりをもらったときのような
空からゆっくり落ちてくる大きな雪を受け止めようと声を上げてはしゃぐ幼子のような
聴く人の喜びを

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