芸人が料理の大会に出場した日。〜後編〜
[前回のあらすじ]
芸歴1年目の芸人である太田!
アルバイト先である居酒屋"土間土間"の店長の勧めで料理の大会に出場!
手強いライバル達を抑え見事関東大会2位に!
そして、全国大会出場を決めたのであった…!
全国大会出場を決めた翌日、バイト先でチヤホヤされている僕に店長が言った。
「全国大会は料理を作りながらプレゼンもあるから。プレゼン能力も審査に含まれる。まあお前芸人だから大丈夫だろ!」
僕は思った。
「もらった。芸人である僕がプレゼン能力で他の人に負けるわけがない。あとは料理の質を上げるだけだ。」
その日から予選で作ったメニューさらに改良し、試作に試作を重ねて納得のいくメニューができた。
そして、1人で新幹線に乗りいざ大阪へ…。
新幹線に揺られること2時間半、大阪に着いた。
人生2回目の大阪。
観光したい気持ちをグッと堪え会場(大阪の土間土間の一店舗)に着くと驚愕した。
普段僕が働いている土間土間の四倍くらいの広さだった。
そして、手元を映すカメラとキッチン全体を映すカメラ、計2台のカメラがセットされていた。
そして、見るからに料理が上手そうな顔をしたライバル達。
誰も知り合いがいない孤独感。
聞き慣れない関西弁が飛び交う空間。
僕は完全に飲まれた。
完全に飲まれてガチガチになっている僕に1人の女の子が話しかけてきた。
「知り合い居なくて怖いですよね…。でも一緒に頑張りましょうね!」
関東大会で僕を抑えて1位になった女の子だった。
天使に見えた。
ちょっと好きになった。
天使と喋って少しリラックスできた所でいよいよ全国大会の幕が開いた。
出場者は10人ほど。
次々と高いクオリティの料理とプレゼンを披露されていく。
僕の出番は刻一刻と迫っていた。
そして僕の一個前の出番の人の料理が始まった。
その人は関西人の大学生ぐらいの男の子なのだが、とにかくプレゼンが上手い。
巧みな話術で審査員の笑いを取りつつしっかり手順を説明していて料理のクオリティもものすごく高かった。
しかも男前。
僕は再び飲まれた。
聞いてない。
こんな面白い人が出るなんて聞いてない。
この時の僕は
「プロの芸人として素人の大学生に笑いの量で負けるわけにはいかない」
というR-1のモチベーションだった。
そしていよいよ僕の出番。
僕はプロの芸人の話術を惜しげもなく発揮した。
料理の完成度など二の次。
とにかく審査員を笑わせる事に全力を注いだ。
その結果、
大スベり。
そりゃそうだ。
芸歴一年目、素人に毛が生えたような奴の小手先のお笑いでは大人の男性は笑わない。
焦った僕がギアもう一つ上げようとした瞬間、審査員が言った。
「あ、盛り上げようとしなくていいから料理の解説しっかりお願いします。笑」
もう東京に帰りたかった。
その後は萎縮に萎縮を重ね特に何も起こらずに終了。
そして結果発表の時。
結果は10人中、
5位。
芸人が一番取っちゃダメな順位。
なんの爪痕も残せず大会は幕を閉じた。
その後、1人で軽く大阪観光をしてホテルでお酒を飲んで寝た。
僕の人生2回目の大阪はほろ苦い思い出となった。
ちなみに1位は関東大会で一緒に戦った天使だった。
授賞式で優勝賞品の韓国旅行のペアチケットを貰った時の
「彼氏と行きます!」
という発言でさらに傷口が広がったのはまた別の話。
〜fin〜