芸人と金とコーラの日。
6年前のとある華金の夜、芸歴1年目の僕は新宿歌舞伎町で同期と3人で飲んでいた。
お笑いの話やくだらない話をしながら楽しくお酒を飲むと「二軒目に行こう」ってことになった。
どこに行こうか悩んでいたところキャッチのお兄さんに話しかけられた。
「キャバクラ1時間3000円でどうですか?」
今の僕なら"これは罠だ"と分かるのだが、当時若かったのと酔っ払っていたこともあり
「行きます!!!」
と即答。
僕達はまんまとキャッチのお兄さんに連れられて店の前へ。
そして店のドアが開いて中に入った瞬間、ものすごい違和感に気付いた。
華金の夜なのに広い店内に客が1人もいない。
僕達はこの違和感に悪質な店だとすぐに察し、小声で
「一杯だけ飲んで30分で出よう」
と約束して席に着いた。
そんな心配も束の間、飲み始めてみるとボーイの方もキャバ嬢の方もめちゃくちゃ気さくで普通のキャバクラだった。
「考え過ぎだったかな?」
なんて思いながらそのまま30分が経過、もう不信感は無かったが念のため約束通りの30分でお会計を頼んだ。
気さくなボーイの方が笑顔で伝票を持ってくる。
「ありがとうございます」
と笑顔で返して伝票を開いた。
お会計、25万円。
スーパー悪質ぼったくり店だった。
その場の空気が凍りついた。
さっきまで気さくだったボーイとキャバ嬢はそこにはいない。
全員真顔で伝票を見つめ
「早く払えよ」
みたいな空気を出してた。
「いや、1時間3000円って聞いたんですけど…」
「それうちのキャッチじゃないんで。」
「え、でも30分で25万円ですか…?」
「はい。うちはその料金でやらせてもらってるので。」
そんな会話をしていると奥から怖いお兄さんが2.3人出てきて
「払えないなら一緒にATM行きましょう」
って言われた。
誤魔化さないように目の前でお金をおろさせて全員の銀行の残高を根こそぎ持っていく気だ。
断ったら何をされるか分からない、僕らは覚悟を決めて1人1人怖いお兄さんに囲まれながらATMに連れて行かれ全財産をおろした。
そして、全員の全財産を足した金額がテーブルの上に揃った。
3万円。
店内のボーイとキャバ嬢は笑いを堪えるのに必死だった。
22.3歳の大人3人の全財産が3万。
全員芸歴1年目、お笑いの仕事などほとんどなくアルバイトの給料日目前で口座にお金が無かったのが幸いした。
さっきまで怖かった人達も同情したのか
「じゃあ今日はこれで大丈夫ですよ」
と言って帰らせてくれた。
やっと解放されて店を出た。
僕達は解放された安心感と金の無さに大笑いしながら
「ぼったくられたなー!」
なんて呑気なこと言って、みんなでポケットにあったなけなしの小銭でコーラを買って飲みながら歩いて帰った。
あの時のコーラ、炭酸とはまた違う刺激があっていつもより美味しく感じた。
〜fin〜