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Doors 第23章 〜 明日への扉

 色々考えた,悩んだ."You"が自分のことではないことくらいは流石の僕でも察しがついた.実らない恋,実らせてはいけない恋だとも.だれも幸せになれない.扉を開ける鍵はあるけれど,そうすればお互いに傷つくだけ.僕が手にしているのは諸刃の剣.どうせ自分はいつだって蚊帳の外だった.
 そうだ,お前はJokerじゃないか.忘れちまったのか.その方が楽だぜ.せいぜい庭から道に飛び出た枝になる腐った果実を分けてもらうことしかできないんだよ.それで十分じゃないか.
 そう扉を閉めても反対側の扉から這い出てくるこの気持ちが議論を再燃させる.そんな風にぐるぐるして辛かった.秒針はいつだってこんな気持ちなんだろうか.慰めにもならない.

 そうして僕は何回転しただろうか,目が回った末にたどり着いた答えは『本能に抗うために余計なエネルギーは使わないようにしよう』と.好きなのは仕方がない.これは僕じゃない.だからその気持ちは抑えられない.けどそれでいい.そこを無理に捻じ曲げようとしても無理なことに気がついた.
 立場の差,年齢の壁,世間の目,そういったものはこの気持ちに蓋をしてくれない.だったら,いっそ蓋をしなければ良い.気持ちをオープンにして,空っぽになってしまえばその時に扉を閉めよう.それが済んだら逃げないで夢の続きを追いかけようと.

 そう思うと,とても楽になった.それで現実が変わらる訳ではないけれども,久し振りに温かい風に包まれた気がして嬉しかった.この事実を墓場まで持っていく賢い選択肢もあったけど,直感的に話さなければならないと思った.そう声が聞こえた.いつだって声には逆らえない.
 それに,感謝の気持ちを述べたかった.だから,本人に打ち明けることに決めた.そのことで,今のこの関係が変わってしまうことはほぼ間違いない.幸せのお裾分けすらもなくなってしまう.でも,それがお互いのためでもあると言い聞かせた.声が僕の背中を押した.

 結果は皆さんの想像通りだと思う.決断の前夜,LINEでやり取りしながら鬼リピートしていた曲.何年か振りに恋をしていた曲.何年か振りに心から笑っていた曲.LINEの通知を心待ちにしていた曲.その曲が泣いていた.一夜だけの美しいメロディとなって,僕の心の中,奥深くにある扉の向こうへと.
 もちろん辛くない訳がない.でも,それ以上に迷惑をかけてしまったことへの罪悪感と後悔が僕を襲ってきた.感謝は伝えられたが,結果的に自分のエゴで傷つけてしまった.そのことに対する謝罪が届かないことが心残りだ.でも,もう終わったことだ.これ以上の関わりは僕の本望から遠ざかる.
 この扉を選んだのは本当に正解なのだろうか.僕は本当にこの扉を開くために過去に戻ってきたのだろうか.そう信じたいけれども.答えが知りたい.

 いつだって扉の先が正解かなんて誰にも分からない.知る術もない.間違っていたと思っても,その先の扉を開けたら実は正しかった,なんてこともよくあることだ.もしもその答えが予め分かっていたならば,僕はいつどこでどんな扉を開いただろうか.
 もちろん,この思考がナンセンスなのは知っている.だが,たまには縋ってもいいだろう.この扉が,これでもお互いにとって最善策だったと言い聞かせるしか明日への扉はない.

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