Doors 第5章 〜 いじめ
それはある日突然始まった.内容自体はつまらないものだった.無視や仲間はずれ,鬼ごっこでの集中攻撃などその程度のことで,直接危害を加えられたりとかはされた覚えがない.辛くもあったがどこか他人事のようにも思え,その非日常感を楽しむ自分もまた存在していた.
連中同士は決められた合図を送っていたが,合図とともに"渦"が出ていたのですぐに分かった.その度に合図を変えていたけどその都度見抜いていた.気づいたら鬼ごっこから推理ごっこに変わっていた.
ある放課後,一人机で漢字ドリルを進めていると5人の連中がやってきた.僕は面倒くさいなと思った.リンチされるのかなと机の死角で拳を握りしめた.しかし,予想はあっけなく裏切られた.
連中は僕に対して謝ってきた.怖くて言いなりに従っているだけだと.意味が分からず新手の手法かとも思い,僕は慎重に連中の顔をじっと見回した.すると,彼らの内側から『ごめん』と"渦"が聞こえてきた.だから僕は彼らを信じることにした.このこともあって,僕はいじめに屈することなく過ごせた.この時の出来事は"超記憶"としてしっかりと保存してある.大切な恩人との思い出として.
そして,いじめは程なくして収まった.いじめの理由も聞いた.発端は僕がついた些細な嘘だった.だから当然自分にも非があるし,そもそもいじめもじゃれ合いや喧嘩の延長線のようなものに思っていたから,その後はみんなで仲良く過ごすことができた.
しかしそれからというもの,周りの目をひどく気にするようになってしまった.人と話す時にも不自然に自分の目が泳いでいるのが分かる.そして,人間観察をよくするようになった.その経験は渦の世界をより強固なものにした.
※ 渦:人から出る様々な念のようなものを勝手にこう呼んでいる.
※ 超記憶:映像化された記憶.強い感情を伴う.