Doors 第26章 〜 夢
未来で音楽家になる夢を叶えた僕は,もう夢に縛られることがなくなった.そのことは僕をいい方向に大きく変化させた.その一つは夢が変わったということ.新たな夢は『プロ並みの実力をつける』ことだった.一見変わっていないようで,実は大きく変わったように見えるけれど,本質は実は同じものだった.やることに変わりはない.
元々,プロになりたいと思っていたが,どこか周りの同志と違っていた.武道館を埋め尽くす大規模なライブや4大ドームツアーを巡る妄想,音楽番組に出演する妄想,賞賛を浴びる妄想,使いきれないお金に困る妄想,周りが語るそんな妄想に正直ついていけなかった.
もちろん,それらは僕にとっても魅力なのは否定しない.けれども,それをモチベーションに変えることができなかった.僕の中でそれらは結果の一つに過ぎなかった.お金やコネで進学しても当人の喜びは大きくないだろう.必死に勉強し,受験に打ち勝った結果入学するから嬉しいのだ.それと同じ感覚で,僕の夢は僕自身の中にあったのだ.
音楽をやり始めた時からプロの実力をつけることへの拘りが存在していたのだ.確かに音楽を始めた動機が"ない"ことからもうなずける.そのことに気がついた.そして,今まさにそれが夢となり一致した.だから,今までとこれからと,やることにさして変わりはない.
フォーカルジストニアとの闘いにおいても,壁が迫ってくることがなくなった.あの恐怖に怯えながら走らなくてもいい,そんな柔らかな精神状態は技術の向上をぐんと後押しする.結果が目に見えて変わった.練習が楽しい,心からそう思える.それに気づかせてくれた運命の人に心から感謝している.
プロ顔負けの実力を身につけて,その成果を心から喜び合えるパートナーがほしい.それが今の僕が追いかけている夢である.
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