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早く起きた朝の父
どんなに早く起きても、父は仕事をしていた。
小学生の頃、8時には寝ていた。
我が家はそもそも夜が早かった。よって、寝る時間の決まりというのもあったが、正直起きていてよかったとしても眠くて起きていることなどできなかったと思う。
もっとも、姉や兄は各々の部屋で夜更かしをしていたらしいが。
素直に8時に寝ていた私は、起きるのも早かった。5時半…早ければ5時前に起きることもあった。なんとも健康的なもので、お腹が空いて起きる。
私がどんなに早起きをしても、リビングには灯がついていた。ドアを開けると、リビングにあるローテーブルに書類を広げ、ワープロと向かい合う父がいた。
「今日も早起きやなぁ、まだ寝ててもええんやで?」と嬉しそうに父は私に声をかける。おはようよりも先に。お腹が空いたからというと「健康やなー」とまた微笑みながら仕事に戻る。
適当にあるものでお腹を満たし、牛乳をマグカップに入れて父の横に座ると、仕事をしながらもずっと話をしてくれた。私は何をするわけでもなかったが、手持ち無沙汰なので、何かしらの書き物をしていた。好きな詩人の作品や、国語の授業で気に入った物語を、ノートに書き写す…といった意味のないことを好んでしていた。その間も父は、会話をしながらも仕事を進めた。
印刷の時には、必ず声をかけてくれた。私がインクリボンの動きを眺めるのが好きだったから。左右に素早く行ったり来たり。それも一定ではなく、不安定なリズムであることもたのしかった。何故これで印刷ができるのかと不思議だった。
そうして時間を過ごすと時折、父の仕事が早く終わったタイミングで、父の膝の上に乗りワープロの打ち方や使い方を習うこともあった。
×××
私の知る限り、父は姉兄にはとても厳しかったが、私にはとても甘かった。何をやっても褒められる。姉兄と同じことをしても、私は怒られない。これが末っ子の特権というものなんだろう。
姉兄は、平日に父の姿を見ることはほとんどなかったはずだ。どんなに役職が上がっても、父は誰よりも早く会社へ行き、誰よりも遅くまで会社に残った。母がよく「気を使うだろうに、部下がかわいそう」と言っていた。
だから、夜ごはんを一緒に食べることもほとんどなく、姉兄が起きる前に父は出勤した。
だから、父とゆっくり話ができるのは朝の6時までだった。話がしたくて早く起きていたわけではない。私はお腹が空いで起きていたのだ。しかし、日頃から私には優しい父が、より一層穏やかな表情で私を見つめてくれるのも、この朝5時の時間だった。
×××
そんな父は今年、古希を迎える。
とっくに定年退職をしているが、今も3足の草鞋を履き、まだまだ忙しい生活を送っている。
帰省した時も、私は6時ごろには起きていたのだが、父は相変わらず仕事をしていた。
この早起きは歳のせいもあるだろう。
そんな父に、毎年年末にクリスマスプレゼントとして運動靴を買っている。私が社会人になってからは、ほぼ毎年。去年は忙しく、帰省はしたもののプレゼントすることができなかったのだが、今年こそはと催促が来ていたので今年こそは…と。
歳を取るごとに、やや気難しくなっていく父を見て、あの朝5時の父にはもう会えない気がしていた。不思議なことではない。変わったのは父だけでなく、もちろん私も同様なのだから。
しかし、2人で靴屋へ行き、父の気にいる靴とサイズを探し購入した時たとき、なんとなくだが、あの頃の朝5時の父に会えた気がした。
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