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Fritidshem - スウェーデンの学童と余暇活動

'September, 2019

ここ数日、仕事として日本の保育園関係者たちを案内してスウェーデン各地をまわり、英語で通訳をしながらツアーコーディネートを続けている。初日から各地の森のようちえん(I Ur och Skur)、自然学校(Naturskola)、幼稚園(Förskolan)、小中学校(Grundskolan)と、精力的に動いている。もう2度も3度も来ているところでも、新しい発見や学びがたくさんある。

昨日はNynäshamnにある自然学校や幼稚園、小中学校を訪れた。特に公立の大規模な小中学校であるVanstaskolanでは、放課後の余暇活動にあたるFritidshem(Leisure home、日本の学童)を見学した。

2週間のスウェーデン滞在でいろいろと話を聞く中で、スウェーデンの教育システムにおける役割は、学校だけでなく余暇の時間も大きな位置を占めていることが少しずつわかってきた。

Nynäshamnは港町。夏にはバカンスに出かけようとたくさんの人たちが訪れる。バルト海に浮かぶゴットランド島や、遠くはポーランドのグダンスクまでフェリーが出ている。

そもそも比較的短い授業時間、宿題や塾がないこと、共働き家庭が多く長い時間を学童で過ごすこと、長い長期休暇などを踏まえると、学校以外の余暇の時間をどのように過ごすかが、そのまま子どもの成長に大きく関わってくる。今回見学したVanstaskolanでは、朝は6時半から始業まで、放課後は終業から18時までFritidshem(学童)がオープンしていて、長い子で1日5・6時間をそこで過ごすことになる。

Fritidshemには専門の指導員や先生(Fritidsledare、またはFritidspedagog)がいて、その活動の目標は学校庁が定める学習指導要領に掲げられている。義務教育外なので無料ではないが、一般的には6才(プリスクールクラス)から9才(小学3年生)までの低学年の子どもの多くが通っている。

今回案内してもらった学童の先生は、こんなふうに話してくれた。「学校の授業が各単元を理論的に学ぶところだとしたら、放課後の学童の時間は、学んだことを実践的に試してみるところです。そのためには、遊びや運動、好奇心やクリエイティビティ、仲間との協力や社会性、身のまわりの環境や社会に対する意識など、一人ひとりが自分の考えを表現することを大切にしています。」

案内してくれたVanstaskolanの学童の先生

その学童の時間の中では、子どもたちが身体を動かたりスポーツをしたり、近くの森に出かけたり、室内でゲームをしたり工作をしたり、いろんな選択肢があるのだという。複数の学年の子どもたちが集まるので、小さい子は年上の子からいろいろなことを学び、次第に自分で出来るようになる。そういった経験を通して他者との関わりを学び、共に学び合い、自分の意思や自信を育みながら自分の得意を見つけていく。

「Fritidsの活動はただの遊びやゲームではなく、そこにどんな価値があるのか、すべての活動に意味や目的を持たせるようにしています。この活動をすることで、それが子どもたちの学びにどうつながっていくのか。そういった活動ごとの計画をつくり、実践的な学びにつなげていくことが、Fritidsledare(余暇活動指導員)の役割です。」

月に一度、子どもたち自身で活動の内容を決めるパーティーの日がある。Fritidsrådと呼ばれるその日は、パーティーの中でどんな活動をするか自分のやりたいことを投票し、その日の活動を子どもたち自身で作っていく。また、何か必要なものや買ってほしいものがあれば校長先生と直接相談し、許可が下りれば買ってくれることもある。ここでもやはり民主主義の意識が重視されていて、それはスウェーデンの社会の根底にあるものだと、その先生は話していた。

自然学校も、放課後の学童として利用される。ニュネスハムン自然学校。

子どもが4年生以上になり、一人で歩いて家まで帰れるようになると、学童に通う子は減っていく。家で過ごしたり、友達と遊んだり、民間のスポーツクラブや文化サークルに所属したり、それぞれの選択で余暇の時間を過ごしていく。それは大人になってからも続いていく。基本的には定時に仕事を終え、子どもと家で過ごし、長い長期休暇には思い思いの時間を過ごす。そしてスウェーデンの成人のほとんどが、仕事や家庭とは別に、クラブやサークルや団体に所属して、余暇の時間を過ごしているらしい。

ずっと前にSNSで拡散されていた、映画監督のマイケル・ムーアがフィンランドの教育を取材した動画が今でも印象に残っている。フィンランドの学校では、宿題をやめ、統一テストを廃止し、子どもがのびのびと余暇の時間を過ごせるようにしているという。この動画の中には、北欧の教育のスタイルを象徴するような、たくさんの大切な言葉が散りばめられている。

「調理したり、歌ったり、美術や自然探索もみんな必要よ。子どもでいられる期間はとても短いんだもの。」

「子どもらしく日々を楽しまないと。子どもたちはいつ遊んで、友達と交流し、人として成長できるの? 学校以外の場所にも人生は山ほどあるのだから。」

「テストで点を取る訓練は教育ではない。学校って自分が幸せになる方法を見つける場所じゃない?」

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(2015)

「余暇」は仕事や勉強以外の単なる遊びという以上に、「自分をつくる」そして「つくり直す」時間でもある。そして、そのための「学び」は学校を出た後も、生涯続いていく。そう考えると、日本とはまったくレクリエーション(Re-creation)の意味合いが違っているような気がしてしまう。彼らのライフスタイルを見ていると、社会や教育制度の違いこそあれ、人間らしく生きるとはある意味こういうことなんだろうか、と思えてくる。

スウェーデンの人たちはよくこんなふうに話している。
「仕事も学校も、人生の一部に過ぎないもの。悩みも問題も確かにあるけど、That’s Life. それが人生でしょ?」

ニュネスハムン自然学校で働くスタッフのロバート(男性)は、小学生の下の子に合わせて、金曜日になると国の制度を利用して午後休を取得していた。Dad's Fridayとして、金曜午後は子どもと一緒に過ごす。(右はお父さんではなく自然学校のもう一人のスタッフ)

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