スウェーデンの教育とサステナビリティ レポートvol.2
Miljöverkstan Haninge
ニュネスハムン自然学校の現代表ロバートの案内で、ストックホルム近郊のハーニンゲ・コミューン、Rudan Center内にある"Miljöverkstan"という名前の施設へ。
Miljöverkstanを英語で表せば ”Environmental Lab" 。Haninge駅近くの建物の中に、自然学校、リユースセンター、レッジョ・エミリアのプリスクールのためのアトリエルームなどいろいろな機能が集約されていて、ここも他のNaturskola(自然学校)と同様コミューン(自治体)によって運営されている。ホームページを見ると、「Miljöverkstanはハーニンゲ・コミューンが担う野外教育とサステナブル・デベロップメントのための中心施設です」と説明されている。コミューン内のプリスクール、基礎学校、高校を含めたさまざまな学校のための、さながらExpanded Classroom(学校外クラスルーム)という感じ。
自然学校のセクションを訪ねると、ここで働くPatrikとThereseが出迎えてくれ、建物内を案内しながらこの場所のさまざまな機能やプログラムを紹介してくれた。自治体内の自然学校として、小学生向けの生き物やエコロジーについて扱ったプログラムや、北欧の自然享受権(allemansrätten)とクラス内のチーム・ビルディングをテーマにしたプログラム、高学年向けの気候変動教育、高校生向けのサステナビリティ・プログラムなど、幅広い学年を対象にさまざまなテーマのプログラムを提供している。
また、学校のクラスを対象にした上記のようなプログラムだけでなく、先生向けの研修にも力を入れている。パトリックは次のように説明する。「この場所の最終的な目標は、先生たち自身がクラスの子どもたちを外に連れて、自分で野外の授業を行えるようになること。そのためには、それまで教室の中で行ってきた授業と同じものを、野外のフィールドでもできるのだと先生自身が気づけるように働きかけることが大切です。また、そのための機会として自然学校のプログラムを利用することは、先生が直接教えることから一度離れて、あらためてクラス全体を見渡したり、新たな関係を気付いたりする上で重要な役割を担っていると思います。」
またここでは、野外のプログラムの他に、施設内でのエコロジーやサステナビリティをテーマにした授業を行なっている。例えば、自分たちが日々使っている家庭用の水道がどこから来てどこへ流れて行くのか、自分たちの普段の買い物やライフスタイルがどのくらいのCO2を排出しているのか、その中で自分たちのどのような選択が環境に対して良い(悪い)効果をもたらすのか、そういったテーマを子どもたちは室内の展示やそれを元にしたディスカッションを通して学んでいく。
スウェーデンのサステナビリティ教育
今回のスウェーデン訪問では、いろいろな教育現場でサステナビリティをテーマに取り上げているところがよく目についた。訪問先として案内してくれた場所が特に環境のテーマに力を入れているところが多かったとはいえ、掲示物として至るところにグローバルゴールの17の目標が貼り出されているし、そうしたテーマを扱うための教育的な教材もたくさん用意されていて、その都度それらを参照しながら子どもと一緒に話をしている様子を多くの場所で紹介してくれた。
個人的な意見としていろいろなところで話をしていたのは、特に日本の教育現場で ”サステナビリティ” といった大きなテーマを扱う場合、さまざまな要因が絡み合った複雑な問題系として、学校で扱うにはどこから始めたらいいか、どのように扱えばいいかしばしば手に負えないように思われていること(前回の記事で書いた”民主主義”や”子どもの権利”も然り)。そうしたテーマは大事だと少しずつ認識され始めているが、依然として正面から扱われていないこと。そして”気候変動”などの問題も含めて、「地球を守るためにはリサイクルをしましょう」「こまめに電気を消しましょう」と、個人のモラルや振る舞いの問題に矮小化されてしまい、それ以外の視点が抜けてしまうこと。(もちろんそうした行動から始めるのは大事だけど、それだけではすべて個人の「思いやり」や「良心」の範囲に委ねられてしまい、より広い構造上の社会的・政治的な問題にまで考えが至らなくなってしまう。人権や多様性とは「他者に思いやりを持つこと」だと語るのと同じ。)
今回訪ねたMiljöverkstanで説明してくれたのは、気候変動もサステナビリティも、そこにはエコロジーの観点だけでなく、同時に経済的な視点や社会的な視点も含まれているのだということ。「私たち一人ひとりに責任がある」と言うけれど、温暖化が進んでいる要因としては、そのことを学校で学ぶ子どもたち以上に、現在のような社会の姿を作ってきた大人たちに責任がある。”It's not always your responsibility.” それは多くの場合、電力会社やグローバル企業が引き起こしてきた経済的な問題でもあるし、さらには政治的、社会的な構造の問題でもある。またそれらの問題は、気候変動以外にも人権や平等や労働といった、社会を取り巻く他の多くの問題と直接的または間接的に結びついている。そして、それらの状況は自分たちの毎日のライフスタイルや、個々人の日々の選択によって左右される。スウェーデンのサステナビリティ教育は、そうした子どもたちの日常と結びついた身近なテーマや問題から始めて、さまざまな視点を通してサステナビリティを学び、それを元に子どもたちどうしの会話や議論を刺激していくように展開されている。
帰り道、「そうした ”大人の責任” を暴いたという点で、グレタは子ども自身が主体的に考えて行動する上でのモデルなのかも」という話をロバートとした。スウェーデン国内でも、彼女に対して否定的に考えている人たちも一定数いるらしい。ただ、ロバート曰くそうした大人は「自分の選択やこれまでの行動が脅かされている」と感じて拒否反応を示しているだけなのだと。
そんな話をしながら帰り道を歩いていると、ロバートが突然道端で会った一人の若者に声をかけた。彼は小学生の時に自然学校に通っていた生徒で、今は二十歳前のティーンエイジャー、一見ちょっぴりヤンチャそうなイカした車に乗るヤングスターだ。
「グレタのことをどう思う? 環境問題についてどう考えてる?」とあけすけにロバートが質問すると、こんな答えが返ってきた。
「そうだね。グレタの言っていることは正しいと思う。今は車で移動する機会が多いけど、テスラのような電気自動車はバッテリーの生産に大きなエネルギーを必要とするし、将来的に廃油やバイオエネルギーを使った性能の良い車が開発されたらそれを選びたい。気候変動は確かに今起こっている問題で、どうにかしないといけないと思ってるよ。」
サステナビリティ教育を行うスウェーデンの、若者の生の声が聞けた瞬間だった。