止まった時計
こんにちは。
ここは心の時計屋さん。
みんなの心の時計を整備しているよ。
今日は、あるお客さんのお話をしよう。
はなちゃんはたくさんの時計を持っています。
365日、24時間の時計
お腹が空いたら鳴る腹時計
お勉強を一生懸命頑張っている時間の時計
苦手なピアノの時間の時計
大好きな家族で過ごす時間の時計
はなちゃんが経験したことを刻んでいく時計
はなちゃんはこの時計のどれも大切にしています
そんなあるとき、はなちゃんの大好きなお父さんが死んでしまいました。
いつも応援してくれていたお父さんがいなくなってから、はなちゃんのお父さんの時計は止まってしまいました。
「周りのみんなの時計は全部ちゃんと動いているように見えるのに、私のお父さんの時計はとまったままだわ。」
はなちゃんはとても悲しい気持ちになりました。
悲しい気持ちになってはいたけれど、他の時計は変わらずに動いていて、まるで何事もなかったかのように朝はやってきます。
「この時計が動き出すことはもうないのかしら...とても大切なものだったのに。」
止まった時計が悲しくて、いっそ時計を全て壊して自分も死んでしまおうかと考えます。
時計を動かさなきゃ
みんな動いてるから
止まった時計を持っているなんて恥ずかしいことなんだ!
でも時計は捨てられないものだから。
止まっても無くせないから、ずっと奥に奥にしまって隠しておこう。誰の目にも触れないように。
はなちゃんの目にも、触れないように。
そんなある時、お母さんがひみつの扉を見せてくれました。なんと、はなちゃんのお母さんもたくさんの時計を持っていたのです。
お母さんの時計ははなちゃんの時計よりももっとずっとたくさんありました。その中には止まっている時計もたくさんありました。
「お母さんもたくさん時計を持っているのよ。お母さんの持っているお父さんの時計も止まってしまっているわ。大切にしている時計が止まってしまうのはとても悲しいことよね。」
「だけど見て。大切なはなちゃんの時計はこんなに綺麗に時を刻んでいるの。お母さんはこの時計が美しく時を刻むのを見届けることが、お父さんとの約束なのよ。それにほら、止まってしまったお父さんの時計も、ここに飾ってみるととっても素敵でしょう?」
お母さんは続けます
「お母さんは昔、大学に行って勉強したかったの。でも、お金がなかったからそれができなかったのよ。それからこの時計はしばらく止まったままだったの。だけどね、今、挑戦しようと思うの。そうしたらほら、動き出したのよ。」
時が経つにつれて、いろんな時計が増えて、ある時止まったお父さんの時計が、とてもしっくりくるようになった。
時計が止まっていても、いつかしっくりくる時がある。そのままでもいいんだよ。大切にしていれば。