小田川クソ小説 第6話 「凌遅」
結成当初から応援していたバンド「クイズ豚骨醤油」が今年で10年目となり、メンバーが皆、30代となった。
今まで勢いがあったり、落ち着いたりを繰り返しながら活動を続けていたが、10年目を節目に気合を入れ、アマチュアバンドが賞金100万円+メジャーデビューを賭けた大会に出ることになった。
確かな実力もあったし、いつ売れてもおかしくないと思っていたので、それを聞いた私たちファンは嬉しくなって、みんなでライブハウスに予選へ行き、1回戦、2回戦、準決勝、と勝ち上がっていき、いよいよ決勝へと勝ち上がった。
しかし決勝の相手は、毎度ライブをすると箱をパンパンにする東京の人気バンド「&500」だ。本番の会場も東京の上、審査基準もオーディエンスの歓声の大きさだったので、大阪で集めても20人程度のクイズ豚骨醤油には相当厳しい戦いだった。
私たちファンは集まって、大型スタジオを借りて発声練習を懸命に行ったが、とてもじゃないが100人規模のファンの声援には勝てそうになかった。このまま負けてしまうのかなと思い、士気が下がり始めた時、私はある事を思いついた。
「悲鳴なら勝てるんじゃない?」
人間の発する声で一番声量が大きいのは『悲鳴』だと思った。人間がまだヒトであった頃、身の危険が迫った時や、不快に思った時に『悲鳴』を上げ、第三者を助けを求めたり、敵を追い払ったりする。
しかし、それなりの理由が無ければ簡単に悲鳴など上げれるものではない。私はそこでも思いついた。
「みんなで自分の二の腕の肉を削ぎ落しましょう!」
むごい発想ではあったが、確かにそれなら恐ろしい程の悲鳴をあげれるだろう。クイズ豚骨醤油がメジャーデビューできるならお安い御用だった。
…
そして本番当日。2バンドのみではあるが、会場は大いに賑わっていた。しかしお客さんの数は予想どうり、20人対100人といった所だった。
お互いの演奏を見て、会場は大いに盛り上がった。しかしクイズ豚骨醤油サイドの客は、時間の経過とともに表情が青ざめつつあった。
「さて!!いよいよ運命のオーディエンスジャッジのお時間です!!」
とうとうこの時間がやってきた。クイズ豚骨醤油サイドは、懐に入れた肉切り包丁に手をかけた。
「&500の演奏が良かったと思う方!!熱い声援をどうぞ!!」
『ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!!』
「ではクイズ豚骨醤油が良かったと思う方!!どうぞ!!」
『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』
一斉に目をつぶりながら自分の二の腕を削ぎ落した。流石に手を止める者もいたが、一体感の空気がそれを許さなかったのか。他のファンが助長して削ぎ落していた。正にこの世の地獄、惨憺たる有り様であった。
&500のファンはドン引きしていた。
ジャッジしていた司会は困惑していたが、仕事のマニュアルに"声の声量、勢いがある方が優勝とする"と書かれていた。
「優勝は……ク…クイズ豚骨醤油ゥ…!!」
「はあああああ!?!?!??」
「ふざけんな!!」
「納得いかないわ!!」
&500のファンからは大ブーイングだった。クイズ豚骨醤油のファンはまだ人肉を削ぎ落し合っていた。大量出血の為、半数近くが倒れていた。もう誰にも止められはしなかった。
100万円をゲットしたクイズ豚骨醤油だが、会場に削ぎ落された赤い人肉を見て、『焼肉が食べたいなぁ』とメンバー全員が思った。
『&500も&500ファンも!この100万円で焼肉を食べに行こうよ!!』
こうして&500と&500のファン、クイズ豚骨醤油は凄く仲良くなって、東京や大阪、いろんな場所でツーマンをするツアーを組む約束しましたとさ。
人肉を削ぎ落し合ったファンは全員死にました。
(このクソ小説はフィクションです。実在の人物やバンド、大会などとは関係ありません。)