生贄の巫女おまけ

このシナリオは、ティル・ディ・テールお絵描きchannel/till familiaさんの【イラスト配信】オリジナル悪役キャラデザ その3【お絵描き】の配信アーカイブを見て、思いついたシナリオです。




【しずく】
「あなたたちが、神様……?」

【紗枝】
「いえ、私たちは鬼なの。でも、人を食べたりはしないわ」

【浅葱】
「人間が勝手に勘違いしてるだけだよ」

紗枝が鬼になってから、何度も繰り返されたことが、また繰り返される。
今回の巫女は、自分の村が嫌いなようだった。

浅葱が言うには、村が豊かであれば紗枝のように大事にされ、貧しければ巫女はどうせ死ぬ人間だと、ぞんざいに扱われるらしい。

【しずく】
「紗枝さま! 紗枝さま! 見てください、ひらがなを全てかけるようになりました!」

【紗枝】
「まあ、すごいわね。しずくは物覚えが早いわ。これなら早く、違う村に行けるかもしれないわね」

【しずく】
「えへへ。ありがとうございます。でも、私ここにいたいなあ。紗枝さまと浅葱さま、お母さんとお父さんみたいだもん」

【紗枝】
「…………」

【しずく】
「この文字、浅葱さまにも見せてくるっ!」

食事を与えれば、しずくは元気になり、すぐに紗枝と浅葱になついた。

そんなしずくを哀れに思う。
村でぞんざいに扱われ、最後には浅葱と紗枝に食われてしまう。

そのことを知らずに明るく笑っている。
しずくを逃がしてやりたいが、空腹を抑えることもできない。
そんな自分が嫌で嫌でたまらない。

【浅葱】
「感づかれたらだめだよ、紗枝」

【紗枝】
「わかっています」

【浅葱】
「よく熟れてから、二人で食べよう。絶望に落としてはいけないよ。鬼はもういらない」

【紗枝】
「はい」

しずくは紗枝と浅葱を、心から慕っていた。
初めて心を許せると笑っていた。
これから食われるとも知らずに――。

そのしずくがあっという間に大人になり、ほかの村へと出ることになる。

しずくが廃屋の前で、見送りに来た紗枝と浅葱に頭を下げる。

【しずく】
「ありがとうございました! 紗枝さま! 浅葱さま!」

その下がった首に、紗枝と浅葱は同時にかぶりつく。

【しずく】
「え…………」

しずくはそれだけ言って、頭を落とした。

紗枝と浅葱はしずくの顔には目もくれず、柔らかい肉をかみちぎり嚥下する。

紗枝はいっそ死んでしまいたいと思う。
けれども食欲にはあらがえない。

鬼は自分で命を絶つことはできない。
浅葱が紗枝を使えると判断している間、殺されることはない。
きっとあさましく、自分は永遠に生き続けるのだろう。

絶望に浸りながらも、紗枝はしずくの肉をむさぼり続けた。

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