乖離

 一年の浪人生活を経てなんとか大学入学前期試験を終え、合格発表を待っていた3月のある日、僕は松山に住む中学時代からの友人の家に遊びに行った。4日間彼の家に泊めてもらい、ビデオゲームと観光に勤しんだ。
 羽振りよく高い飯を食い、朝方まで遊び、実に楽しかったが、同時にどうしようもない虚無感と欠乏感が残った。
 性とゲームとSNS、それ以上のものは彼の言動から何一つ感じられなかった。それがただ哀しかった。
 僕が持って行った「自分の中に毒を持て」に対して、「夜と霧」をくれたのは、嬉しかった。でも、「夜と霧」についての彼のコメントも、正岡子規と紀貫之について僕が振った話題へのコメントも、面白いとは思わなかった。
 思えば、女と旅行にも行ってるアイツ、童貞どころか彼女もいたことないオレ。締まった体でチンチンでかいアイツ、ぷよぷよでチンチンちっちゃいオレ。ゲーム上手くてSNSを使いこなすアイツ、どっちも下手なオレ。一緒にマイクラしても、アイツはすぐにスマホを触る。オレはひたすら地下を掘ってる。
 地方国立落ちて軽々と私立に変えたアイツ、浪人して志望学部変えてまでK大に拘るオレ。バイトしてるけど金使わないから余ってるって言うアイツ、親の仕送りを浪費癖で食いつぶしてハラハラしてるオレ。
 醤油が零れてもアイツは机を拭かないで、気づかず汚れた袖が気にかかるオレ。道後温泉入ったあと、アイツはなぜかテンション低くなって、何かやっちまったかと気を揉みながら冗談言うオレ、知らんぷりで女とラインするアイツ。
 俺が求めてきたのは、求めているのは、創作と、自己表現、自己実現、あとは、生きるべきか、死ぬべきか。
 気づけば何もかもズレていた。対極ですらあった。中学のころ俺に一番興味を示してくれたおまえと、どうしてこんな4日間を過ごしたんだろう。どうして俺は、こんな意地の悪い文章を書かずにおれなかったのだろう。
 この文をもしおまえが見ても、どうか怒らないでくれよ。きっと、よくある話なんだ。いつの間にか、道は分かれてたんだ。

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