見出し画像

聖バレンタインの奇跡

昔書いたオリジナルのショートショートです。
pixivに文庫メーカーで作成したものを掲載しております。

聖バレンタインの奇跡

 僕は君に会いたいんだ、どうしても。
 神様がいるなら、ひざまづいて祈りたい。どうか君に会わせて、と。
 君にどうしても手渡したいものがあるんだ。今、僕の懐に大事に持っている。
 お願いだから僕の前に現れてくれ。約束したじゃないか。バレンタインの夜にはここで会おうと。どんなに寒くても、遅くなっても待ってると、約束したじゃないか。一方的にいなくなる別れなんて、ずるいよ。
 時計が夜7時を告げた。
 不意に目の前に、君が現れた。
 ごめんね。待たせて。
 いいんだ、そんなこと。君が来てくれただけで。
 君はポケットから小さな包みを出して、僕に差し出した。
 本命だよ。
 君が微笑む。わかってたよ、そんなこと。僕は懐に持っていたものを出した。
 それは君の靴。車にはねられた時、君は片方の靴を失くしていた。僕の夢の中で君はずっと靴を捜していたね。
 僕が靴を履かせると、君は嬉しそうに笑った。
 その笑顔がだんだんぼやけて来た。
 行かないでくれ。つぶやく僕に、君はそっとキスした。そして夢が覚めるように、君は消えた。
 僕の手には、君の本命チョコだけが残された。

        終わり

補足

以前、日航機墜落事故で犠牲になられた方のご家族へのインタビューをテレビでやっていて、その中で、亡くなられた方が夢に出てきて靴を探していて、その方が見つけて仏壇にあげたら夢に出なくなったと話されてたことがありました。
それがモチーフになっております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?