見出し画像

ホワイトディ

昔書いたオリジナルのショートショートです。
pixivに文庫メーカーで作成したものを掲載しております。

今回掲載するに当たり、一部加筆修正しました。

ホワイトディ

 一軒のケーキ屋に入る。ホワイトディの飾りつけが踊っている。
 きれいに並べられたお菓子の中で、どれが君の喜ぶものだろうかと考えたけれど、僕にはちっともわからなかった。僕は君の好きなものがわからない。僕は君のことは何ひとつ知らなかったんだ。
 君は僕のくだらない夢を素敵だって言ってくれた。ただのカッコつけの僕を、励ましてくれた。でもあの頃の僕は若過ぎて、君の優しさに気づくことはなかった。
 僕は君に束縛されるのはいやだったのに、君が誰かと話したり、少しでも僕から離れようとしたら、プライドが傷つけられたような気がして、僕は君を傷つけた。ドメスティックバイオレンスなんて他人事だと思ってた。僕は自分の傷しか見えなかった。
 結局僕は、君を「所有」しようとしていたんだ。だから、それまで持っていたブランドを変えるように、別の恋を見つけた。
 僕は新しい恋に夢中になった。
 仕事も波に乗って、有頂天だった僕は、派手な女に溺れ、刺激的な夜に浮かれた。
 そして僕は君を捨てた。
 最後に会った時の君は、別人のようにやつれ、近寄りがたいほどに暗かった。それを見て、僕は別れて良かったと思ったんだ。
 君はひっそりと微笑んで、さよならと言った。

 あれから何年経ったんだろう。僕は、見てくれだけの恋に疲れ、仕事にも情熱が持てなくなっていた。そんな時に、僕は君を見つけた。
 夜の街を幸せが腕を組んで歩いてる。その中に君はいた。
 僕の知らない男性と、君は幸せそうな笑顔で歩いていた。その笑顔はとてもきれいだった。
 僕は気づいた。僕は君の笑顔を知らない。それは、僕が君から笑顔を奪っていたからだ。あの日、最後に君と会った時見た、やつれた君の顔は、僕がそうさせたんだ。
 僕の側を君は通り過ぎて行く。まるで僕に気づかずに。
 君の笑顔に胸が締めつけられる。それは罪悪感と嫉妬だ。僕の知らない君の一面を見つけた彼への。
 笑ってくれよ。本当に、僕はなんて愚かなんだろう。今頃君が恋しい。
 一軒のケーキ屋に入る。悩んだ末に、僕は白いふわふわのマシュマロを選んだ。店員がピンクのリボンをふんわりとかける。
 永遠に届けることのない想い。君がこれを受け取った時の顔を想像しながら僕は店を出た。

        終わり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?