聖バレンタインの奇跡
僕は君に会いたいんだ、どうしても。
神様がいるなら、ひざまづいて祈りたい。どうか君に会わせて、と。
君にどうしても手渡したいものがあるんだ。今、僕の懐に大事に持っている。
お願いだから僕の前に現れてくれ。約束したじゃないか。バレンタインの夜にはここで会おうと。どんなに寒くても、遅くなっても待ってると、約束したじゃないか。一方的にいなくなる別れなんて、ずるいよ。
時計が夜7時を告げた。
不意に目の前に、君が現れた。
ごめんね。待たせて。
いいんだ、そんなこと。君が来てくれただけで。
君はポケットから小さな包みを出して、僕に差し出した。
本命だよ。
君が微笑む。わかってたよ、そんなこと。僕は懐に持っていたものを出した。
それは君の靴。車にはねられた時、君は片方の靴を失くしていた。僕の夢の中で君はずっと靴を捜していたね。
僕が靴を履かせると、君は嬉しそうに笑った。
その笑顔がだんだんぼやけて来た。
行かないでくれ。つぶやく僕に、君はそっとキスした。そして夢が覚めるように、君は消えた。
僕の手には、君の本命チョコだけが残された。
終わり
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