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新月の夜に
私は白い息を吐きながら、丘の上で空を見上げている。月明かりのない空は、こわいくらいに真っ暗。澄んだ空気のおかげで遠くの星も輝きを増しているように見える。
「そういえば、夜空を思わせるピアスをしてたんだ・・・」そう思いながら耳元のピアスに触れた途端、意識が薄れた。
「ねぇ、ねぇ、大丈夫?」と私を起こす声に意識が戻った私。ゆっくりと目を開くと、そこには蛍のような淡い光がフワフワと浮かんでいた。
「えっ!?」と驚く私をよそに、その光は私に話しかける。
「君が僕のこと、待っててくれたんだよね?」
「???」
私は目を丸くしながらその光を見つめるのが精一杯。そんな私をよそに、その光は大きな光で私を包んでいった。
優しくて暖かいものに包まれたと思ったら、今度は大きさの異なる半透明の球体が辺り一面に浮かんでいる不思議な場所にいた。
「これ、何だかわかる? 君の記憶たちだよ♪」
「????」
「ひとつひとつを、よ~く見てごらん」
一体何が起こっているのか状況がつかめないけれど、その光に言われたとおり半透明の球体のひとつを見上げてみると・・・球体の中で何かが動いている。目を凝らして意識を集中させていくと、半透明だった球体の中で映像が流れていた。しかも、その映像の中にいたのは「私」だった。
『お母さんは、私のこと嫌いなの?』『なんでいつも「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」って言うの?』
そう呟きながら、3、4歳くらいの私が、膝を抱えて寂しそうに座っている。今にも泣きそうな顔をして・・・
そうだ、私は・・・、こんな小さな頃から我慢してきてたんだ・・・
我慢することが当たり前だと母親に教えられ、いつの間にか、あまり我儘を言わない手のかからない子になってたんだ・・・
何とも言えない気持ちになり、その球体に向かって両手を伸ばすと、その球体が手の中にすっぽりと収まった。今の私にできるのは、球体の中にいる『私』に共感できること、そして寄り添えること。そう思った私は、その球体に頬ずりをするようにしながら、思いを伝えた。
球体の中にいる今にも泣き出しそうな『私』の顔が少し赤くなり、かわいく首をかしげながら「ほんと?」と、今の私を見上げてくる。
「ほんとだよ。今まで寂しかったね。でもね、あなたは一人っきりじゃないんだよ。私がいつもあなたのそばにいるから安心して」
その言葉を聞き終えた球体の中の『私』は、自分を包み込んでいる今の私から伝わったであろう温かい何かを感じ取ったみたい。
寂しいときは寂しいって言っていいんだよ・・・
我慢しすぎるのはよくないことだよ・・・
そんな言葉たちを理解した『私』は、かわいい笑顔を浮かべ、どこかへ行ってしまった。
私の周りをくるくると浮かぶ光が私に「どう? 君の願いを叶えてあげたよ?」と言った。一瞬、何のことかわからなかったけど、私は大きくうなずきながら「ありがとう」とその光にお礼を言うと、その光は静かに消えていった。
私は「私に共感してくれる誰か」を探していたのです。その誰かとは自分の中にいるんだってことを、蛍のような淡い光が教えてくれたのでした。
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