タクシードライバーに囲まれる
フランクの出張について、梓はホーチミンにいた。フランクは梓に戦争博物館を見に行くといいよと勧め、現地の平均給与の1か月分の紙幣をテーブルに並べ、一通りどれがいくらでと説明をした後に「半日ならこれで足りると思うから。」と梓に紙幣の束を渡した。
「昨日、ホテルの近くに両替商を見つけたから必要ない。」
と梓は固辞するも
「いいから、これ使って。」
と言われたので、帰国後に使った分だけ現地通貨で返そうと決め受け取った。
「何時に戦争博物館前で。」
とフランクは言い残して部屋を出て行った。
部屋は2ベッドルームに大きなリビングとキッチンがある十分な広さの部屋だった。梓はゆっくりと支度をし、言われた通りに戦争博物館へ向かった。フランクにはきつく止められていたが、バイクタクシーで。
バイクタクシーは梓の住む国には無いのと、風を感じられるのが気持ち良くて好きだ。ただし、あまりベトナムの平均価格について調べていなかった上、英語が全く通じないのを良いことにコミュニケーションを取ろうとしないライダーにまんまと結構な額をぼられてしまった。
時間はたっぷりあった為、戦争博物館を時間をかけて回った。一通り見終わった頃には待ち合わせの15分前だったので、博物館前で待とうと外へ出て、フランクに博物館前にいる旨メッセージを送った。外でボーっと激しい交通の往来を眺めていると、タクシーのアレンジをしている女性がやってきて梓にタクシーを探しているのかと聞いてきた。彼女は英語が流暢だった。
「友達を待っているの。」
と伝えると、どこから来たのか聞かれた。
「住んでいる場所は違うけど、出身は日本よ。」
と言うと
「オ~!ジャパ~ン!!」
と言われ、日本愛を一通り伝えてくれた後に日本にまつわる色んな質問をされた。その間に、タクシードライバーたちが様子を見に来て彼女に何かを聞くと、彼女が梓の方を見ながら恐らく日本人であることを伝えたのであろう。他のドライバーたちがどんどん集まってきて、彼らからも色んな質問を受けた。質疑応答状態になり、ふとスマホを見るとフランクから電話がかかってきていた。
「どこにいるの?博物館前にいなかったから、中に入ってるんだけど。」
と言われ
「前にいるよ!」
と答え、門の方を見ると友達が出てくるのが見えたので手を上げて
「左向いて!ここ!ここ!」
と言うと、ようやく梓の姿が見えた様で梓の方に向かって歩いてきた。
その時に梓はようやく気が付いたのだが、歩道上に梓とタクシーをアレンジしている女性を中心に2、3重の円ができていた。
全員そこまで背が高くないと言えど、まさかフランクも梓がベトナム人の中心にいるなんて思わなかったらしく完全に素通りをしていたようだった。梓は女性とタクシードライバーたちに、話ができて楽しかったと御礼を伝え女性と別れのハグをした。
梓が住んでいる国で過去に一度、買い物中に急に梓の周りに人だかりができたと思ったら、後ろにいた女性が梓の鞄の中に手を入れて財布を取ろうとしていた事があったので、今回も囲まれて全く不安が無かったわけではなかったが、純粋に日本に興味を持って質問をしてくれるのは嬉しかった。
たまに、気分を害する様な質問をされる事があるが、この時はそういった類の質問が一切なく、最後まで楽しく質問に答える事ができて、その場にいたみんなが笑顔だった事が梓はとても嬉しかった。