見出し画像

とある国のお仕事事情

ゆかは旅行先から家族や友達に葉書を送るのが好きだ。
今回の旅でも街を散策しながら、気に入った葉書を買い居心地が良さそうなカフェに入り葉書をしたためる。

今回の旅で送りたい人への葉書を旅の最終日前日までに書き終え郵便局へ持って行く。

郵便局にはカウンターと、その反対側に手紙や葉書が送れる機会が並んでいる。
カウンター側にはまぁまぁの人の列があり、機械の方は1台食料品の袋を持ったおじさんが使っているだけで、後は空いている。

機械にあまり強くないゆかは「まぁ、時間はたっぷりあるし。」と、列に並ぶことにした。

列に並んでいると、1人の郵便局員が前の人から順に来局目的を聞きに来た。ゆかの番になり、ゆかは葉書の束を見せながら「これを送りたいの。」と国外郵便であることを告げた。

郵便局員は当然のことながら「後ろの機械、空いてるよ。」と機械を指差しながら応じた。
「私、機械が苦手で使い方がいまいち分からないの。急いでもないし、私はカウンターにこのまま並ぶわ。」と伝えたら、なんと

「あの機械にいる彼が使い方を教えてくれるよ。」

とくだんの食料品を持った男性に聞こえる声ではっきり言った。

え・・・?
ゆかは耳を疑った。あれ?私、彼の英語ちゃんと理解してる?自分の英語力も疑った。
「もしかして、食料品を持った男性は休日の郵便局員?だとしても、休日中に仕事させちゃだめだよね?」とゆかの頭の中は?マークで覆いつくされた。

食料品を持った男性に視線をやると、面食らった顔をしていた。
「え・・・俺??」と言いたげな顔。

彼の反応を見て、彼は郵便局員ではないし、英語力の問題でも聞き間違いでもない事を理解したゆかは「でも彼もお客さんですよね?彼に聞くのは申し訳ないので、私はここに並び続けます。」と、丁重に郵便局員の提案を断った。

郵便局員は「彼に聞いても大丈夫だよ。」と続けたものの、ゆかに気を変える気が無い事、食料品を持った男性からゆかに声をかける気が無い事を悟り

「分かったよ。こっちに来て。僕が教えるから。」

と諦めた面持ちでゆかを列から連れ出した。
郵便局員は意外な事に、ゆかのペースに合わせて丁寧に教えてくれた。
全ての手続きが終わり、ゆかが郵便局員に御礼を言うと郵便局員は「この国を楽しんでね!」とウインクで応じてくれた。

郵便局を後にしてからも
「お客さんに教えてもらうって普通なの?聞いた方が良かったんだろうか?でも、あの男性の反応からして聞いても教えてくれただろうけど、喜んで!って感じではなかったよね。。。」と疑問が残った。

ただ、あれだけ堂々と客を使おうとする郵便局員の大胆さには面白いと感じたので、仕事を終えた地元の友達メグとメグの弟のボビーと夜ごはんを食べている時に、その話を持ち出した。

「今日、こういう事があったんだけど・・・
それってこの国では普通なの?」

と聞くと、メグもボビーも驚き半分、呆れ半分という顔をしてメグが口を開いた。

「そんな対応するの、その人だけだよ。
郵便局員はこの国の人じゃないね。」

これは、メグの皮肉表現。
メグの言葉を聞いて、食料品を持った男性に聞かなくて本当に良かったとゆかは思った。

絶対に日本ではない種類の対応だ。
メグも、メグの国でそんな話聞いたことないと言っていたけど、それでもそんな大胆な対応の人にゆかは会ったわけで・・・。

その国で日常を送らないゆかには、そこでの日常が何なのかは分からないけれど、面白い人に出会える確率が格段に上がるのは旅ならではだなと、旅の最終日の夜に満足をしていた。

いいなと思ったら応援しよう!