宝石商
東南アジアを旅行中、知り合いに勧められた
レストランでランチを取ろうと地図を頼りに
歩くも見つかる様子がない。
路面に面したお店だと聞いていたのに
地図が指すのは古びたショッピングモールの中。
何度もその辺りをぐるぐる回ってみたけれど
見つからないので、ショッピングモールに入ってみることにした。
ショッピングモールの中は薄暗く、
ほぼお客さんの姿は無い。
お店も閑散としていて、いくら治安の
良い国と云えど、長居をするのは少し不安になる感じだ。
一通り回ってみて2階へ。
レストラン自体見つからない。
歩道橋に直結しているので、出入口近くに
あったジュエリーショップの老紳士に声を
かけた。
地図を見せて、行きたいレストランの名前を伝えたら「ついてきなさい」と。
なんと、他に店番はいないのにお店の鍵も
かけずに、お店から出て行く。
心配になって思わず、お店は大丈夫なのかと
声をかけた。
笑顔で振り向き「心配いらない」と言い、
ショッピングモールから出て行く。
どこまで行くのかと思ったら、歩道橋の真ん中で立ち止まり、レストランの方角を指差しながら「この歩道橋を降りて、真っ直ぐ歩いて最初の角を曲がったら見つかるよ」と
教えて下さった。
わざわざ歩道橋まで出て親切に教えて
くださった御礼を述べると、握手を求められ
丁寧に両手で私の両手を包みながら
私を気遣う言葉と共にありがとうと
何度も言われた。
何故私が御礼を言われるのだろうと
思いつつも、私も改めて御礼を伝え別れた。
私が歩道橋を渡り切るまで見守って
下さり、渡りきったところで振り向いたら
手を振って下さった。
老紳士の包み込むような優しさと
親切心に胸がいっぱいになった。
レストランは無事見つかり
美味しい中華料理を楽しんだ。
今でも、その日のことを思い出す度に
老紳士が1日でも長く健康で幸せに
暮らせますようにと祈る。
幸せでいてほしいと願う人たちが
増えるのは、とても幸せなことだなぁと
嬉しい出会いがある度に思う。