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kazのこんなカメラ㉜ PENTACON PRAKTICA BMS Electronic


 話は先日のフィルムさんぽコンパクトカメラ回の時に遡る。

 フィルムさんぽではカメラはスズキさんにネガを預け、現像を待つ間に遅めの昼食の時間となる。
 大体有志が集まって横浜駅近くで食事をしてそのまま近くのカメラ屋さんに立ち寄るコースが定番化しているのだが、たまたまその際にCONTAX用のテレコンバーターであるムター2を安価で発見・購入することとなる。
 競馬の写真を撮影する際に300mmの望遠レンズとテレコンバーターを併用して撮影しているのだが、それまで使っていたムター2が白濁してしまい使えなくなってしまっていたのだ。

 ホクホクしている私に参加者の方が声を掛ける。

「なんかプラクチカのアダプタありますよ」

 見に行った私の目に留まったのが、東ドイツはPENTACONのPRAKTICA Bシリーズに対応するM42マウントからバヨネットマウントへの変換アダプタ。
 しかもカールツァイスイエナ純正品で外箱付き。マイナーなマウントであることもあり、ebayなど海外で探しても送料まで含めるとおよそ1万円前後するちょびっと珍しいものだ。
 それが相場の半額以下で売っていたのだ。そりゃ買ってしまうだろう。


 ※プラクチカというのは東ドイツのカメラであり~という細々した説明は面倒なのでこちら参照


 んで、このプラクチカシリーズも1979年以降新マウントを投入。従来のM42スクリューマウントからプラクチカBマウントと呼ばれるバヨネット式のマウントに変更している。(M42シリーズも平行して生産されていた)この変換に使われる純正のアダプタだった、ということだな。

 ところで問題が一つあり、私はプラクチカBボディを持っていなかった。
 正確に言うとBC1型があったのだがジャンク品まとめで買ったものであり、動くボディではない。
 まあ、別に急ぐものじゃないしそのうちBマウントボディを買うか、と。そう思っていた。



YOUはSHOCK!!


 一旦話が逸れるが、数年前から私は中央競馬のクラシック三冠レースとそのトライアルはできるだけ現地で見るようにしている。今年の菊花賞に関しても同様で、指定席を予約して関東から遠征する予定を立てた。
 当初持参する予定だったカメラはOlympus M-1OM-1を譲った友人がその後見事にオリンパス沼に嵌まったものの、足首を掴まれてしまって私も一緒に落ちてしまったため、「オリンパス合わせで撮ろうぜ!」という話をしていたためである。




 車を一年点検に持っていった帰り道、たまたま寄ったハードオフで京都遠征時の小型バッグとして丁度良さそうなミラーレス用のボディバッグを見つける。これまた偶然M-1が車に置いてあった為、入るかなー、サイズ合わせをしようと車からカメラを持ってきてバッグの上気室に入れ、ファスナーを閉めて試しに背負ってみたところ。

 ガッシャーーーーンッ!

 えっ、何っ!?
 
 なんとこのボディバッグ、上の気室と下の気室が仕切りで区切られているだけで構造上はつながっており、上に入れたM-1が自重で仕切りを越えて下のファスナー(こちらを閉めていなかった)から落っこちて床に叩きつけられてしまった。
 外見上のダメージは角へこみ、レンズフードビス歪み、レンズ中玉欠け……
 実際動かしてみると露出計が動作不動に。

 菊花賞遠征前にM-1を壊してしまったのだ。

 これには本気で落ち込んでしまい数日間夜殆ど眠れないほどだった。それくらいM-1が気に入っていたからではある。

 このショックに菊花賞に持ち込む別のカメラを用意する必要が生じた。いや無難にいつも使っているCONTAX AXとかSR-T101なんかでもいいのだが……
 悩んでいるときにフッ、と件のマウントアダプターを見かけた。

「そうだ、プラクチカBマウントボディとM42レンズ組み合わせたらどうだろう」

 実は私、M42マウントボディでTTL露出計が機能するボディを持っていない。従って競馬撮影で一々単体露出計で露出測って、とやりながら撮影するのは困難である。
 プラクチカBボディなら実絞りにはなるがTTL露出計が動くし、なんならBマウント用のアダプトールを用意すればタムロンレンズで開放測光も可能である。

 これだ!と思いつきebayでプラクチカBマウントボディを探し、新品同様品と銘打たれているボディを急遽買った。見込みでは菊花賞前に届く、はず、なのだが……


 

ロイヤルメールあるある


 購入したのは9月。出品はイギリスからだった。
 イギリス国内から郵便局の小包でebayの配送センターに運ばれ、そこで積荷を国際便へと切り替えるGSP(グローバル・シッピング・プログラム)と呼ばれる発送。
 私は諸事情あり「ガッカリ・シット・プロブレム」と呼んでいるが。

 まあ過去の経験上(私はebay評価がヤフオクとメルカリのそれを足したよりちょっと多い)菊花賞前にはまず間に合うだろうし、上手くすれば10月12日のフィルムさんぽにも間に合い事前テストが出来るかもしれない。そう思っていた。

 イギリスの郵便局サービスは「ロイヤルメール」という。
 もうこの段階で分かる人は分かるね。

 実はこのロイヤルメール、「ロイヤル」って冠を即刻外して欲しい、と思うぐらいサービスが遅いし悪いしよく無くす。
 以前海外品のトランスフォーマーを購入したときは郵便局で一ヶ月を過ごしていたし、スコットランドで食べたハギスが忘れられず缶詰を輸入したら途中で無くされた。
 
私の個人的感情では少なくとも先進国では最もダメな郵便サービスじゃねえの?と思ってしまうくらい悪い。
※ちなみにロシアは物凄くちゃんと届く。以前は。今は知らん。

 二週間ほどイギリス国内から荷物が出ることがなく、セラーからも心配するメッセージが届くほどだった。およそ3週間を掛けて、なんと遠征出発二日前の10月17日に到着することとなった。

 もう、本当ロイヤルメールはさあ(呆れ)


エレクトロファイヤー!


 改めて、到着したのがこちらのカメラ。


 黒く精悍な面構えであるな。意外とコンパクトではある。


 状態的には確かに新品同様。ケース・ストラップ・ボディキャップも付いて傷一つなくモルトも綺麗な状態で届いた。

 そもそもこの「プラクチカBMS」とはどういうカメラなのか。

 先述どおり、東ドイツのペンタコンは1970年代末~1980年代にプラクチカBマウント(Bはバヨネットの意味)の採用を始めた。
 絞り優先オート機能が付いたB200、絞り優先オート専用機BC1、まあネーム違いのJenaflex、東西ドイツ統一後にシュナイダー・ドレスデンが販売したBX20Sなどいろいろなモデルがあるが、基本的には「最速1/1000の電子シャッター機で開放測光ができる」のが基本となる。
 このBMSは絞り優先オートをあえて省略したマニュアル専用モデルで1989年発売。電子シャッターではあるが性能的にはPENTAX MXあたりが一番近くなる。


 実際の使用感としてもそう悪くはない。東ドイツ機あるあるなのだが各部はカチッとしっかり動作するが全体的に操作が固い、という東ドイツっぽい味がするな。ただ、「エレクトロ」って誇らしく名乗る、ほど、かな……(小声)


イースト菌

 

 元々マウントアダプタから生えたカメラなので当然M42レンズを使用することが出来る。



 私の虎の子・PENTACON SUPER様用のセットレンズ・Pancolar 55mm F1.4。トリウムレンズで黄変しているため基本的にはモノクロフィルムでの運用となる。撮影例がこちら。






 ちゃんと動いているじゃないか!!

 え、驚きどころそこ?と思われるかも知れないがドイツとはいえ東側のカメラは蓋を開けてみるまで信用しない主義だ。
 況してやこれだけを持ち込んで京都に前日から泊まっていたため、これがファーストロールとなる。もしこれで動作不良だったら本番はパァになるものだった訳だし。




  M42用の135mmゼブラゾナーで。

 「ゼブラレンズが粋」とXで言われたのだが、まあゼブラとかゼブラじゃないとかより「東側のレンズだからとりあえず買ってる」程度の意識である。

 実絞りにはなるものの、さすが天下のカールツァイスイエナ純正アダプタ、ものすごく精度がよく使いやすくはある。

 純正のPRACTIKAR 50mm F1.8はペンタコンに合流した東独マイヤーオプティックゲルリッツ社のOrestonにルーツを持つレンズである。
 このOreston、私はCONTAX AXの標準レンズ代わりとしてAFで使っている。




 そもそもこのオレストンが結構写るレンズではあるので期待がかかる中、京都河原町の繁華街をタングステンフィルムを詰めて撮り歩いてみた。





 予想どおり中々の写りをしているな!!

 かなり使いやすくていいカメラなのだが、やはりちゃんと欠点はあって、ファインダー右側にランプで露出が表示されるよくあるタイプのやつなのだが、この露出計が結構見づらい。
 先ほど近い、として提示したPENTAX MXはランプの色が適正露出に近い方から緑・黄色・赤と分かれているのだが、このBMSはシャッタースピード一覧の横に赤い色のランプが点灯。設定している速度の赤ランプが点滅し、適正露出と重なると点滅が停止する仕組みとなっている。

 ならば何も問題ないのでは?と思うかもしれないが、まず露出計が結構迷う。
 オーバーアンダー含めランプが3つ4つくらい点灯するのが割とよくあり、その上設定速度がこの中に含まれていると3つ4つ並んだ赤ランプが全て点灯したままとなり実際はどこに速度が設定されているのかよくわからなくなってしまう。
 また、ファインダー内各ランプの横にシャッタースピード一覧が並んでいるが、これは白背景であれば見やすいものの、屋外での使用ではほぼ表記が読めない。


出典: https://kosmofoto.com/2019/09/praktica-bms-review/ghtz-1-of-4-2/


 従って、なんとなく勘でこのへんかなー、と合わせるかいっそ絞りの方を操作して設定SSに合わせた方が楽かもしれない。
 なんとなくいつもの東側カメラっぽいオチだ。


 

うなる必殺武器!タムロニックキャノンの威力


 前述のモノクロテストが優秀だったため、菊花賞本番に何の憂いもなくこのBMSを使うことが出来た。
 特に中央競馬の撮影では結構な望遠レンズが必要となるのだが、このプラクチカBマウントは望遠レンズの大元がマイヤーかカールツァイスイエナか(一部シグマなどの日本製OEMもある)となってしまい、流通量は少ないわ値段も高いわで入手そのものが大変である。

 こういうときはどうするか。

 そうだね、タムロンだね。

 数は少ないものの、タムロンアダプトールにはプラクチカBマウントもちゃんとある。今回はたまたまポーランドで見つけて落札しておいた為、別途手配したタムロンの超望遠をジョイントして扱うことが出来たのだ。


M42マウントに装着

 タムロン 200-500mm F6.9ズームレンズ。重量2770gの超大物で、まあこれくらいあれば問題なく競馬が撮影出来る。
 付けたあだ名はタムロニック・キャノン。

※中央競馬の撮影には35mm判換算500mm以上、開放F値8くらいまで、ISO800くらいあると開放で1/125~1/250秒で撮影が出来る

 問題は、物凄く重い。

 おまけにズーム・ピントヘリコイドの位置関係の問題で、右手でボディを持って左手でピント調整して構える、という一連の動作が物凄く難しいレンズだ。
 そこで、自立しない一脚を三脚座に取り付けて運用してみることに。
※競馬上では自立する一脚・三脚は持ち込み禁止

 試行錯誤の上、一脚を左手でガングリップのように持ち、石突部分をストックのように小脇に抱える擬似的なフォトスナイパースタイルが一番扱いやすいことが判った。



 フォトスナイパー、あれやっぱりちゃんと意味あるんだな。

 初期の使用では使い勝手が悪く上手く使えず、追加装備や試行錯誤でちゃんと使えるようになる辺りは割とロボットアニメとか特撮ヒーローの新必殺武器感がある。

 そうして頑張って撮影したのがこちら。







 どうだろうか。まだまだ取り回しの工夫はいるけども、アダプトールによる開放測光も取り敢えず動いている。
 使用後に腕の筋肉が死ぬ事以外は割と実用性があるようだ。


人民公社!ペンタコン!!


 って言うとなんとなくスーパー戦隊のタイトルコールっぽい。全体的には「東ドイツなだけあり手堅く纏まっている一眼レフカメラ」であると思う。
 プラクチカBマウントのカメラはヨーロッパでは割と普及しているものの、正直日本ではマイナーな部類に入る。
 絶対的なスペックが15年くらい遅れている訳だし……
 
 しかし造りはそう悪くないいいカメラだと思う。

 使えるレンズがプラクチカールという皮を被ったツァイスイエナかマイヤー製(か時々シグマと韓国のシリウス)な事もあり、機会があれば触れてみてもらいたい機種だ。

 ちなみに、フィルムカメラ専用SNS filmbiyoriについて以前紹介記事を書かせて頂いたのだが……



 なんと、filmbiyoriでは撮影機材選択のデフォルト選択肢にプラクチカシリーズがあるぞ。



 kaz a.k.a 犯人




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