担当衛生士制? 分業制? それともランダム?
今回は患者さんを衛生士さんにどう割り当てるか問題。
いくつかパターンがあると思うので、それぞれのパターンに利点・欠点についてお話していきたいと思います。
本題に入る前に、まずよくある3つのパターンの簡単な解説だけしておきます。
ランダム制: そのときあいている衛生士さんをただランダムに割り当てるやり方
担当衛生士制: 患者さんごとに担当衛生士を決め、原則としてその衛生士以外がその患者さんを担当しないやり方
分業制: アシスト、各検査、TBI、SRPなど、処置内容によって衛生士をある程度決めてしまうやり方
それでは、各パターンの解説です。
ランダム制の利点と欠点
そのときあいている衛生士さんを割り当てることができるので、最も無駄がなく、突発的なトラブル(衛生士さんの急な病欠など)にも対応しやすいやり方です。
おそらく最も多くの歯科医院で採用されているやり方で、お金儲けが目的なら最有力に挙がる方法でしょう。
他の2つに比べ、診療の質は低くなることが欠点です。
分業制の利点と欠点
近代の工業化の本質は分業にあった。こう言われるくらい、分業というのは強力な手法です。
衛生士さんがやる処置を固定することで、その技術の習熟を早め、診療の質を上げることを目的とするやり方です。
ただしいくつかの欠点があります。
・アポの調整が難しくなりがち
・突発的なトラブル(衛生士さんの急な病欠など)への対応が最も困難
・担当しない処置の技術が上がらない、できなくなる
→衛生士は他で働けなくなるおそれがある
また、診療の質を上げることが目的ではあるものの、実際の診療の質はむしろ担当衛生士制より低くなりがちで、アポやトラブルへの対応も弱いことから、これを採用する妥当性がほとんどありません。
実際、この制度を採用している歯科医院も非常に少ないです。
担当衛生士制の利点1:信頼を得やすい
担当衛生士制については解説が長くなるので、いくつかに分けて書いていきます。
一点目の利点が患者さんの信頼を得やすいことです。
患者さんの信頼を得ることで、あらゆる処置がやりやすく、また患者さんの意識改革・行動変容にも取り組みやすくなるため、健康を守ることにもつながります。
信頼が得やすくなる理由としては下記2点です。
1. 単純に接触回数が増える
「単純接触効果」といって、人間はただ会うだけ接することを繰り返すだけで自然と好きになる、という性質があります。
これによって、ただ衛生士を固定化するだけで信頼が得やすくなります。
2. 一貫性を保ちやすい
もちろんちゃんとした医院であれば、衛生士の考え、歯科医師の考えは医院で統一されているでしょうが、「その人にとって何がベストか」は担当によって見方が違うこともあるでしょう。
過去のコミュニケーションを一字一句逃さずカルテに記録するというのも現実的ではなく、ある程度記憶に頼って会話することも多いと思うので、その場合にきちんと一貫性を保つには、同じ人が担当するのが一番です。
担当衛生士制の利点2:意識改革・行動変容の機会が多い
担当衛生士制だろうが別の制度だろうが、患者さんの診療の回数や時間は同じ(はず)ですよね。
だとすると、意識改革・行動変容の機会も同じだけあるように思えます。
ところが、実はそうではない部分があります。
例えばスケーリングやSRPというのは、一見するとただ手元で作業しているだけの時間に思えますが、実際は患者さんとのコミュニケーションも可能な時間なんです。
ここで衛生士が固定化されておらず、そのときたまたま担当するだけの衛生士だったり、SRPをやるだけの衛生士だったりすると、せいぜい世間話が関の山になってしまうでしょう。
でも担当衛生士制であれば、お口に関するちょっとした小咄をしたり、前回から何か変えたところがないか話を聞いたりすることで、少しずつ患者さんを変えていくことが可能になります。
担当衛生士制の利点3:責任感を持ちやすい
担当衛生士制は衛生士が最も責任感を持ちやすい制度です。
責任感を持つことで診療の質が上がり、衛生士自身のスキルも伸びやすくなることが期待できます。
担当衛生士制が責任感を持ちやすくなる理由としては3つあります。
1. 逃げ場がない
その患者さんは自分が担当する、と完全に固定化されているので、他の人に任せてしまう、自分の仕事ではないと目をつぶるなどの逃げ場がありません。(もちろん歯科医師や、他の衛生士に助言を求めることはできますし、積極的にそうすべきですが)
2. 責任の所在があいまいなことがない
例えばP治療でTBIとSRPの担当が別だと、どちらの取り組みが不十分なのかはっきりしないことがありますよね。それに限らず、人間の身体はそう単純なものではないので、誰の何に問題があるのか分からないことが少なくありません。担当が固定化されることで、全責任が自分になります。
3. アシストによる責任も発生する
歯科医師が治療している場合も、自分がその患者さんのアシストについていれば、アシストの質が患者さんに影響しますし、歯科医師がどんな治療をしているか見ることで、一定の責任感を負うことになります。
仮にその患者さん本人のアシストにはつかないことがあっても(実際、担当衛生士制の医院でも、アシストまでは固定化しないことがほとんどだと思いますが)、他の患者さんのアシストにつくことが日常化しているのであれば、日々歯科医師の診療を見てアシストする中で責任感があるはずです。
担当衛生士制の欠点
担当衛生士制の欠点は2つ。
ランダム制と比べると高コストであり、分業制と比べると多くの技能の習熟が必要となることです。
まずランダム制と比べると高コストであることについては解説の必要はないでしょう。
どうしても担当が限定されるので、「あいていればアポを入れられる」ランダム制に比べて自由度が低く、そのためアポがあきやすくなるので、高コストといえます。
分業制と比べると多くの技能の習熟が必要となり、衛生士の負担が大きくなるように思えますが、これまで説明してきた通り、トータルでは診療の質が高くなることが期待されます。
また、衛生士としてはむしろ多くの技能を高めていた方が、将来的に他の歯科医院で働くことになったときに働きやすいので、分業制よりも衛生士には歓迎されることが多いと思います。
まとめ
衛生士さんの患者さんへの割り当て方は下記3つあります。
ランダム制:
そのとき空いている衛生士さんを割り当てるやり方。
アポが入れやすくトラブルにも強いが、診療の質は低くなる。
分業制:
処置によって衛生士を決めるやり方。
その処置だけでみると習熟しやすいが、アポの入れ方が難しくトラブルにも弱い。診療の質も担当衛生士制に比べると低くなると思われる。
担当衛生士制:
患者さんごとに衛生士を固定化するやり方。
ランダム制に比べるとアポの自由度が低くトラブルにも弱いが、分業制よりは強い。
診療の質も高くなることが期待され、衛生士自身にとってもつぶしが効くので歓迎されやすい。
今回は以上です。