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炭酸水の酸蝕症リスクについて

pHの低い飲食物には酸蝕症のリスクがあることがよく知られています。

近年、炭酸水メーカーや強炭酸水の普及により、炭酸水の摂取にも注意が必要なケースが増えてきました。
炭酸水の酸蝕症リスクについては学ぶ機会が少なく、ご存じでない歯科医師・歯科衛生士の方々が多いようなので、整理することにしました。


なお最初に結論をいうと

・炭酸水(クエン酸等が入っていない、ただの炭酸水)にも酸蝕症リスクはある。
・炭酸水は他の飲料以上に注意が必要である。なぜなら同程度のpHでも他の飲料以上にリスクが高い(可能性がある)から。

です。


炭酸水は歯を溶かす

まず大前提の確認です。

「クエン酸とかが入ってれば危ないけど、ただの炭酸水は安全でしょ」と誤解されている歯科医療従事者も少ないないので、まずは炭酸水が歯を溶かすということをきちんと確認しましょう。

(↓DeepLによる翻訳)

目的:
本研究の目的は,炭酸水の炭酸濃度とカルシウムイオンの有無によって,エッチングまたは封鎖されたエナメル質に及ぼす影響を明らかにすることである.

方法:
ソーダカーボネーターにより炭酸濃度の異なる炭酸水を製造した.前臼歯75本を炭酸濃度とカルシウムイオンの有無により対照群と4実験群に無作為に分け,試験溶液を調製した.未露光,エッチング,密封の各エナメルサブグループの試料を作製後,すべての試料を各試験液に7日間,1日3回,15分間浸漬した.未露光およびエッチングされたエナメル質サブグループの微小硬さ試験は,各グループから10個の試験片を用いて行った.走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて,未露光,エッチング,密封されたエナメル質の各サブグループについて,各グループから5個の試料を用いて試験を行った.各群の微小硬度の変化を,paired t-test,Wilcoxon符号付順位検定,Kruskal-Wallis検定を用いて統計的に比較した.

結果:
微小硬度の変化は、群間で有意な差があった(p = 0.000)。第3群(カルシウムイオンを含む低濃度炭酸水)を除くすべての実験群の微小硬度変化は,Control群のそれよりも有意に大きかった。SEMでは,試験片のエッチング部分が炭酸水の影響を受けており,破壊の大きさは群によって異なっていた。また,炭酸水に暴露した群では,接着剤が部分的に除去された。

結論:
炭酸水はエッチングされたエナメル質や封鎖されたエナメル質に悪影響を及ぼし,微小硬度の低下や接着材の除去をもたらす.

以上の論文から、炭酸水が酸蝕症をもたらす可能性が非常に高いといえるでしょう。


酸蝕症におけるpH以外の要素1:ミネラル(カルシウム・リン・フッ素)

酸蝕症の発生においてpHが重要な要素であることは言うまでもありませんが、それ以外の要素についても整理しておきます。

1つ目はミネラルについて、こちらの論文を引用します。

(↓一部抜粋してDeepLによる翻訳)

う蝕に関連して、歯垢液は臨界pH値を算出するための関連した「溶液」である。安静時プラーク液中のカルシウムとリン酸の濃度はそれぞれ約3.5と13.2mmol/lであるのに対し、発酵プラーク液はカルシウムを8.2mmol/l、リン酸を13.5mmol/l含んでいる[29]。これらの平均濃度から、エナメル質の臨界pHはpH5.5から5.7と計算された。カルシウムとリン酸の濃度は、ある人に対してはむしろ一定であるが、異なる人の間では変化し、それゆえ臨界pHに影響し、臨界pH値の個人間差を部分的に説明する[15]。したがって、歯垢液の組成から決定される上記の臨界pH値は、歯質侵食が起こるかどうかの指針とはなり得ない。歯質侵食の場合、臨界pH値を算出する「溶液」は、実は侵食液そのものである。より正確には、歯牙侵食の臨界pH値は、侵食溶液中の関連するミネラル成分の濃度に依存する。この場合、カルシウムの濃度が最も重要な決定要因であるが、フッ化物やリン酸塩の濃度も重要な決定要因である。これらの濃度は溶液によって異なり、また歯垢液中の濃度とも異なることから、エナメル質の臨界pHは侵食の場合にも変化すると考えられる。

強調は筆者によるもの

また、この論文には各飲料等の臨界pH値(pHc)も整理されています。

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例えばスプライト(Sprite)などは臨界pH値(pHc)が6.5と、かなり高いpHから脱灰のおそれがあることが分かります。
逆にヨーグルト(Yoghurt)はpH・臨界pH値(pHc)とも3.9であり、これだけpHが低いにも関わらずほとんど脱灰しないことが分かります。

炭酸水そのものの臨界pH値(pHc)は記載がありませんが、純水に近いものとしてフレーバーウォーター(Flavored mineral water (Valser))が挙げられているので、これが準用できるかもしれません。
炭酸水は基本的にただの水なわけですから、少なくとも臨界pH値(pHc)が5.5~5.7程度と大きくかけ離れるとは考えにくいでしょう。

したがって、pH5.3やpH5.5~5.7よりも非常に低いpHの炭酸水であれば、十分にリスクがあると考えるのが妥当と考えられます。


酸蝕症におけるpH以外の要素2:酸の強弱

さらにもう一つの要素として、酸の強弱についても言及されている論文があります。

基本的にはpHが酸蝕の性能そのものなわけですから、酸が強かろうが弱かろうが影響はなさそうですが、実は同じpHであれば酸が弱いほど酸蝕のリスクが高いということを示しているのがこの論文です。

また,本研究で各浸漬液の pH を調整したとき,弱酸である酢酸は乳酸やクエン酸に比べて pKa が高いため,pH 調整後の酢酸のモル濃度は高くなっていると考えられる.
(中略)
したがって酢酸は他の酸の浸漬液と比較して高モル濃度であることから,H+ がエナメル質の溶解により消費されても継続的に H+ が供給され,長時間にわたりエナメル質の脱灰を進行させヌープ硬さを低下させたと思われる.すなわち,弱酸である酢酸が強酸である乳酸やクエン酸と比較してヌープ硬さをより低下させたと考える.

強調は筆者によるもの

炭酸は酢酸よりもさらにpKaが高く酸としては弱いので、酸蝕症のリスクは高くなることが予想されます。


危険といえるpH

ひとくちに炭酸水といっても様々なpHのものがあります。

これまでにお話してきた通り、酸蝕症はpHだけでその影響が決まるわけではありませんが、重要な要素であることには変わりありません。
どこからが危険なpHと言えるのか、その参考となる論文をご紹介します。

様々な飲料を、0→2分、2分→4分間浸して酸蝕の影響が試験されています。


この論文中のデータについて、それぞれの飲料のpH、ミネラル、酸蝕のp値(エナメル質の表面硬度を測定)を、pH3.8~6.0の範囲に限定し、pH順に並べてみました。

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p値が0.05以下(つまり信頼度95%以上であり、一般に有意差が認められるライン)については赤で塗りました。


この結果を見ると、pH4.0以下では危険度がぐっと増しているように見えますが、かといってpH4.0以上なら安全というふうにも見えません。
(まあ臨界pHから言って当然の話ではありますが)


我々にとって重要なのはその飲料が「だらだら飲みしても大丈夫」かどうかなわけですが(それ以外の飲み物は回数や飲み方を気をつけるようお話するからです)、数分程度で有意な変化が見られたことから考えると、これでだらだら飲みを許容してよいと考えるのはちょっと怖いように思います。


まとめ

あらためてのまとめです。

・炭酸水(クエン酸等が入っていない、ただの炭酸水)にも酸蝕症リスクはある。
・炭酸水は他の飲料以上に注意が必要である。なぜなら同程度のpHでも他の飲料以上にリスクが高い(可能性がある)から。


炭酸水はpH4.5やpH4.0を下回るものも少なくありません。

常飲することは酸蝕症のリスクがあるものと考えられるため、患者さんにはきちんと指導してあげる必要があるでしょう。

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