歯科医院での禁煙指導/禁煙支援について。ゆき歯科医院のやり方と考え方
歯科医療従事者にとって、患者さんの喫煙は悩ましい問題です。
喫煙とカリエスの関係についてはまだ因果関係がはっきりしていない部分もありますが 1) 2) 、歯周病に深刻な影響を与えること 3) は今やどんな歯科医師・歯科衛生士でも理解していることでしょう。
タバコの害はどんなに優れた歯周治療も無に帰してしまうほど凶悪です。
喫煙者に対しては「超一流の歯周治療を施すこと」よりも「禁煙・卒煙させること」の方がはるかに効果が大きく優先度が高いとすら言えます。
とはいえ、これも多くの歯科医療従事者が理解している通り、「禁煙・卒煙させること」は非常に難易度が高く、その成功は極めて困難です。
当院もまだまだこれから取り組みを発展させていかなければいけない身ではありますが、取り急ぎ今の現状をお伝えすることで参考になればと思います。
禁煙治療についての前提1:成功率が非常に高い
自力で禁煙・卒煙を試みた場合の成功率はおおよそ10%程度とされていますが、禁煙治療を行った場合の成功率はおよそ60%~80%。 4)
患者さんが自力で「禁煙しよう!」と思っても、ほとんどの場合はうまくいかないわけです。
そう考えると、「歯医者さんで怖い話きいたから禁煙しよう!」と思った患者さんの大部分は、こっそり禁煙にトライしてこっそり失敗している、ということが多そうですよね。
患者さんが禁煙・卒煙を考えたとき、きちんと禁煙治療を受けられるかどうかが大事になってくるといえるでしょう。
禁煙治療についての前提2:禁煙治療そのものを歯科医院で実施することは難しい
日本禁煙学会で報告されている禁煙治療の事例や、『禁煙治療のための標準手順書 第7版』を見てみると、実際にどのような治療が行われているのかが分かります。
内容としては、標準的には5回の来院が推奨されており、またバレニクリンを始めとする禁煙補助薬を処方するなどの介入が行われています。
残念ではありますが、歯科医院でこれだけの介入を行うことは不可能でしょう。
受診にあたって保険点数を取ることができないし、禁煙補助薬の処方もできない。そもそも我々は全身のプロではなく口腔のプロです。
我々の果たすべき役割は禁煙治療そのものではない、と考えるべきでしょう。
禁煙治療についての前提3:ニコチン依存度ややる気は禁煙成功とはほぼ無関係
禁煙治療に関する分析によると、禁煙が成功するかどうかはニコチン依存度(ブリンクマン指数による)や、禁煙の関心度・やる気とほとんど相関がないことが分かっています。5) 6)
ニコチン依存度については、むしろ依存度が高い方が成功率がわずかに高いくらいです。
禁煙成功の決め手となるのは、周囲の環境や、それを整える事前の準備。
減煙させるとPについては少しマシになることは知られていますが、禁煙・卒煙からは遠ざかる(かもしれない)と考えると、歯科医院で変に介入して減煙させたりするのは逆効果といえるかもしれません。
当院でやっていること1:禁煙治療している医院のリスト作成
禁煙治療には絶大な効果がある。かといって、歯科医院では医科のような介入はできない。禁煙治療の成否はニコチン依存度ややる気とも関係がない。
とすると、歯科医院でやれる最も大事なことは、
とにかく禁煙治療につないであげること
ではないでしょうか。
そこで当院では下記のような冊子を作りました。
まず、禁煙・卒煙をすることは自力では困難である一方、きちんと治療を受ければ非常に高い確率で成功すること。
そして具体的にこれらの医院で受診ができることを記載しました。
この冊子を待合室に置いていつでも手に取れるようにしている他、各診療室にも保管して興味がありそうな患者さんにすぐお渡しできるようにしています。
ポイントは良さそうな医院をリスト化してあげること。
禁煙治療が保険適用で行える医院はたくさんありますが、歯科医院同様、治療のレベルにはバラツキがあるはずです。
禁煙補助薬だけ渡してあとは放置、という医院もあるかもしれません。
そこで禁煙治療の質の見極めとして、日本禁煙学会の禁煙認定指導者もしくは禁煙専門認定指導者のいる医院に限定してリスト化しました。
これらの認定指導者は試験を受けて合格し、また定期的に禁煙指導の実績を提出する必要があるので、ある程度の質は確保できるでしょう。
当院でやっていること2:あらためて喫煙の害を伝える
あとは基本的なこと、喫煙の害をあらためて伝えること。
それを禁煙治療を受けるきっかけにしてもらうことです。
喫煙者はタバコに害があることは当然理解しています。
しかし歯周病など口腔内にどれだけの影響があるのかまでは理解していないことが少なくありません。
当院では歯周病とは何か、どういう害があるのか、どうやって治すのか、といったことをスライドで説明する機会があります。
この中で喫煙者の方や、喫煙者のご家族の方にはタバコの害をあらためて伝えることで、禁煙・卒煙のきっかけになればと思っています。
最近は副流煙の問題もよく知られているので、さすがに家族の前でぷかぷかタバコを吸う人は少なくなりましたが、電子タバコだと屋内で平気で吸ってしまう方(紙巻きと同様に害があります)や、サードハンドスモーキング(衣服などについたタバコの煙によるもの。環境によっては副流煙以上の害あり)についてはよく知らない方も少なくありません。
子供に何らかの所見が現れていることもあるので、それをきっかけにタバコの害について補足説明をすることもあります。
まとめ
禁煙治療についての前提
1. 禁煙治療の成功率は非常に高い(自力での成功率は低い)
2. 禁煙治療そのものを歯科医院で実施することは難しい
3. ニコチン依存度ややる気は禁煙成功とはほぼ無関係
ゆき歯科医院での取り組み
目指すは「禁煙治療につないであげること」
1. 禁煙治療している医院のリスト作成
2. あらためて喫煙の害を伝える
今回は以上です。
注
1) Smoking related systematic and oral diseases. Sajith Vallappally et al. (Acta Medica (Hradec Kralove). 2007;50(3):161-6) ※システマティックレビュー
2) Oral health risks of tobacco use and effects of cessation. Saman Warnakulasuriya et al. (International Dental Journal (2010) 60, 7-30) ※システマティックレビュー
3) Smoking-attributable periodontitis in the United States: findings from NHANES III. National Health and Nutrition Examination Survey. Thomar SL, Asma S. (J Periodontol 2000 ; 71(5) : 743-751.)
4) Webでもよく言われる数値ですが論文等のエビデンスは見つからず
5) 『当診療所における禁煙外来の現状と今後の展望』南満寿美(和泉市立和泉診療所)(第15回日本禁煙学会学術総会, 2021)
6) 『薬局での禁煙支援における成功要因の検討』堀口 道子(ココカラファインヘルスケア)(第15回日本禁煙学会学術総会, 2021)