見出し画像

唾液検査(カリエスリスク診査)をすべきかどうか問題

これまでの記事


これまでの記事では、

・カリエスリスクアセスメントを使うことで歯科医療の質を圧倒的に上げることができる

・カリエスリスクアセスメントのツールとしてはCRASPがオススメ

ということをお話してきました。


唾液検査については、最初の記事で「唾液検査のみではダメ」という話をしました。

今回は「カリエスリスクアセスメントの一部として唾液検査を行うべきか?」についてお話します。


前提と結論

まず前提としてCRASP(Caries Risk Assessment Share with Patients)では、唾液検査を行っても行わなくてもどちらでもいいということになっています。


私の意見としては
「唾液検査はやってもやらなくてもどちらでもいい。ただ、どちらかといえば、やらない方がオススメ」
と考えています。

その背景について説明していきますね。


欠点1:アクションにつなげられない

唾液検査をした結果、患者さんがハイリスク・ローリスクだと分かったとします。
それで何の意味がありますか?


他の診査項目と比較してみましょう。


だらだら飲みしているのがよくない → 一度に飲むようにしよう

間食がよくない → 間食を減らすか、食事と一緒に食べよう

フッ素入り歯磨剤を使っていない → フッ素入りを買おう

唾液のリスクが高い → ????


唾液検査をした結果カリエスリスクが高いと分かったところで、患者さんは何をしたらいいか分からないですよね。

唾液検査結果は患者さんにとって直感的にコントロール可能な指標ではないからです。


結果が分かったところで何らアクションにはつなげられない。

そういう意味では全く意味がないのが唾液検査なんです。


欠点2:コストがかかる

唾液検査をするにはどうしても金銭的コストがかかります。

患者さんが払うところが大半だと思いますが、こうなると患者さんには金銭的コストと時間的コストの両方が発生するわけです。

また、もし患者さんに料金負担がない場合は医院側が金銭的コストを支払わなければならないですし、いずれにしても医院側にも時間的コストが発生するところは変わりありません。


患者さんのアクションにはつながらずリスクを下げられるわけではないが、患者さん・医院側ともに金銭的コスト・時間的コストが発生する。

そう考えると無駄ですよね。


欠点3:余計な情報になってしまう

カリエスリスクに唾液が影響するのは事実です。

そう考えると、直感的には「唾液検査の結果という形で適切に情報を伝えるべき!」とも思えますよね。


でも‥‥、たとえ唾液がリスクになっている方でも他の項目が満点であればカリエスリスクはほとんどないでしょうし、逆に唾液のリスクが低い人でも他の項目がしっかり取り組めていなければリスクは十分ありますよね。

患者さん自身がコントロール可能な指標だけコントロールすれば十分。
逆に、コントロールできない指標はそもそもどうしようもない。


そういう意味では「知っても無駄」です。

患者さんも人間なので、きちんと頭に入れて家に持って帰れる情報には限りがあります。

そんな中で「知っても無駄」な情報を入れてしまうと、他に持って帰るべき情報を忘れてしまうかもしれません。
唾液検査はインパクトがあるのでなおさらです。


欠点4:過信のリスク

唾液はあくまでカリエスリスクの一因です。

でも、唾液検査の結果が良いと「あなたは虫歯になりにくい人ですよ」と伝えることになってしまいます。

これが過信を生み、他のリスク要因への取り組みを甘くしてしまうかもしれない。

そのリスクが怖いです。


CRASPでは非常に気を使っていて

画像1

唾液検査の結果はあくまで14. と17. の2項目でしかないわけですから、リスクの一因でしかない、と伝える形にはなっています。


ただ、そうはいっても、やはり唾液検査というインパクトの強い検査を患者さんに見せることで過信につながらないか、という心配はついてまわる、というのが個人的な感覚です。


利点1:危機感を煽ることができる

上記とは逆で、唾液検査の結果が悪い場合、患者さんの危機感を煽ることができる点はメリットといえるでしょう。

自分の体質としては虫歯になりやすい、という意識があれば、頑張って他でリスクを下げようと頑張るはずだと想像できます。


ただ、この場合にちょっと気に入らないのは、本人がどんなに頑張っても満点が取れなくなってしまうこと。

本人の取り組み自体はきちんとできているのに、どれだけ頑張っても赤や黄色が残ってしまうのは、どうしても気分が悪いしかわいそうなんですよね‥‥。

どんなに頑張っても90点しか取れないテストって嫌じゃないでしょうか。


利点2:説得力を持たせることができる

唾液検査をやることで、これだけは大手を振って利点と言える、というのがこれです。


再三言っているように、唾液検査にはインパクトがあります。

「なんかすごいことやってくれている」感がでるんです。


これの何がメリットかというと、患者さんが医院を信頼してくれる可能性が高まるんですね。

医院を信頼してくれれば来院が続くし、メンテナンスも継続しやすくなる。


これこそが唾液検査の一番のメリットだと思います。


ゆき歯科医院では

以上のように唾液検査には一長一短があるので、やってもやらなくてもどちらも医院の方針次第なのかなと思います。


ただ、当院自身は唾液検査を行っていません。

これまで利点・欠点について述べてきた通り、唾液検査には欠点がある一方で、利点は少ないことから合理性がないように思っているからです。


さらに付け加えると‥‥、唾液検査をやらない方が医院としての整合性も取れるからです。

まず、唾液検査は結果が分かったところで患者さんのアクションにつなげられないので、ほとんど意味のない検査だと考えています。

ほとんど意味のない検査を、患者さんに負担を強いて行うのは不誠実でしょう。ましてそんな検査を「説得力を持たせるため」だけにやるようであれば、いわば患者さんをだましているわけですからなおさらです。

歯科医療は再発防止に重きが置かれるため、患者さんがその質を実感しにくいものです。このため、最高の歯科医療を提供するには、極めて高い誠実さが必要不可欠です。

不誠実なことをやると人間はどうしても心が不誠実にむしばまれていきます。
「意味がないかもしれないけど提案していいや」というこの「少しくらいいい」という気持ちが、不誠実を生み、医療に妥協を生み、少しずつ医療の質を下げる要因になりかねません。


当院は患者さんの健康がゴールであり、最高の歯科医療を志しているので、こういった要因は排除するのが整合性の取れたやり方だと考えます。


まとめ

下記のように唾液検査の欠点と利点を挙げました。

欠点1:アクションにつなげられない

欠点2:コストがかかる

欠点3:余計な情報になってしまう

欠点4:過信のリスク

利点1:危機感を煽ることができる

利点2:説得力を持たせることができる


以上のことから、唾液検査には一長一短あるため、やってもやらなくてもどちらもアリだと思います。


ただし、当院では「やらない」方針。
私個人としては「やらない」方が誠実であり、それが歯科医療の質向上につながると考えています。


今回は以上です。


関連記事


いいなと思ったら応援しよう!