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ハーレム・スキャーレムとパワー・ポップ路線で勝負する

今週は25年前のお話の続きです。1999年で忘れられないもう一つのバンドはハーレム・スキャーレムです。ハーレム・スキャーレムはヴォーカルのハリー・ヘスとギターのピート・レスペラスンを中心とした、カナダのトロント出身の4人組ハード・ロック・バンドです。2人以外のメンバーは変遷がありますが、今も積極的に活動中です。ハーレム・スキャーレムが日本でデビューしたのは1993年の2枚目のアルバム『ムード・スウィングス』でした。

初代のディレクターは森田さん、2代目のディレクターのKUNIさんは元ミュージシャンでしたが、当時はハード・ロックのディレクターでした。元ミュージシャンですから、ハリーやピートとも良い関係を築き、1997年の『ビリーヴ』、1998年の『ビッグ・バン・セオリー』や様々な企画盤をリリースし、ハード・ロック路線で、日本での人気を築いていました。1999年に僕は3代目ディレクターとして、担当を引き継ぐことになりました。日本では安定していた彼らの人気ですが、実はカナダでは下降気味でした。また音楽性も前作の『ビッグ・バン・セオリー』から、少しハード・ロック色を弱めていました。

洋楽において、本国の売り上げは極めて重要です。本国は国内ということで英語ではDomestic、それ以外の世界の国はInternationalという表現になります。Domesticの売り上げが落ちると、レコード契約を切られてしまいます。ハーレム・スキャーレムはワーナー・カナダの契約でした。その契約がなくなると、日本の契約も危うくなってしまうのです。私が担当になったのは、そんな時でした。僕は新作の現地取材のために、BURRN!の広瀬さんと、カメラマンのウィリアム・ヘイムズさんとトロントに渡航しました。

彼らのスタジオで新作を3人で聴きました。ある程度、予想していたことですが、チープ・トリックや、ザ・ナックのようなパワー・ポップ路線のアルバムになっていました。ですのでアルバムの方向性には驚かなかったのですが、驚いたのは、メンバーのピートがデザインした、そのジャケット写真でした。アヒルちゃんがアルバムのジャケット写真だったのです。それは、
アルバム・タイトルが『ラバー(RUBBER)』なので、ゴム製のアヒルが描かれているというものでした。このジャケット写真はハード・ロック・バンドのイメージにはどうしたものかと思ったものです。

しかも、さらに衝撃のニュースがありました。バンド名を、日本以外の国ではラバー(RUBBER)に変更すると決めたというのです。カナダを初め、日本以外の国では、ハーレム・スキャーレムというバンド名では、ハード・ロックのイメージが強すぎて、自分たちの音楽が聴いてもらえないということでした。国によって、バンド名を変えるというのは聞いたことがありませんが、彼らが決めたことですから、仕方ありません。
ただ、このジャケット写真を変えたいと、なぜ当時の僕は言わなかったのかなと、今思うのです。マーケティング上、アルバムのジャケット写真のイメージはとても大事ですから、アヒルちゃんはちょっとイメージとしては、軽すぎました。もしかしたら、3代目ディレクターになったばかりの僕には遠慮があったのかもしれません。アルバムのリード・シングルは、そんなパワー・ポップ路線なアルバムの中でも、彼ららしい「スタック・ウィズ・ユー」を選びました。そして、1999年12月には、これまでで最大規模の日本公演を行いました。愛媛と高知に行ったのは、とても良い思い出です。

この時のライヴは日本企画盤で『ラスト・ライヴ』というタイトルで、リリースしました。この時には、日本でもラバーに改名することが決まっていて、ハーレム・スキャーレムとしては、最後のライヴという意味が込められていました。さらに、『バラード・ベスト・オブ・ハーレム・スキャーレム』、『ロック・ベスト・オブ・ハーレム・スキャーレム』、『ヴェリー・ベスト・オブ・ハーレム・スキャーレム』という日本企画盤とラバー名義のオリジナル・アルバム『ウルトラ・フィ―ル』と合計6枚のアルバムを僕は担当としてリリースしました。結果的に『ウルトラ・フィール』を最後に、彼らとワーナー・カナダとの契約が切れたため、ワーナーでは、これが最後のアルバムとなりました。
今思うと、新人ディレクターの僕をハーレム・スキャーレムは育ててくれたのだなと思います。たった4年間で、6枚の作品をリリースしたのですから。タイミングとして、彼らにとっても変化を求めていた時期だっただけに、思い通りにいかなかったかもしれませんが、トライしたこと自体はよかったのではないかと思います。なぜなら、彼らは他のレーベルに移籍し、その後は迷いなくハード・ロック路線に、突き進むことができたのですから。そして、今も彼らは、ハード・ロック・バンドのハーレム・スキャーレムとして、活躍しています。

今もたまに、『ラバー』のCDを引っ張り出して、聴くことがあります。ピートが歌う「トリップ」なんかを聴くと、思わずニヤッと笑ってしまいます。僕にとって、ハーレム・スキャーレムのこのアルバムは、駆け出しディレクターだったころのすごく良い思い出なのです。<次回に続く>


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