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ラップ・メタルの元祖、ボディ・カウントの超過激な新作『マーシレス』とは。
リンプ・ビズキットやリンキン・パークが活躍する前から、ラップ・メタルをやっていた、アイス‐T率いるボディ・カウントが新作『マーシレス』をリリースした。アラフィフの洋楽ファンには、ボディ・カウントといえば「コップ・キラー」事件が思い浮かぶだろう。歌詞があまりにも、反社会的すぎるということで大問題となり、アルバムから楽曲は削除され、結果的に所属していたサイアー・レーベルから、契約も解除されたのだ。サイアーの配給はワーナーだったから、92年にワーナーに入社したての僕も横からその様子を見ていた。先輩女史がおそらくアイス‐Tの担当ということもあり、ボディ・カウントの、このデビュー・アルバムも担当していた。「ボディ・カウント・イン・ザ・ハウス」は今聞いても名曲だ。93年には来日公演をやって、それ以来日本には来ていない。あれから30年以上が過ぎたが、アイス‐Tの創作意欲は何ら衰えていないことが、この新作を聴けばわかるだろう。
ラッパー、俳優として有名なアイス-Tは、友達の影響で、メタルを愛聴していた。その影響で、ラッパーでありながら、メタル・バンドを結成した。今や、このボディ・カウントの活動が中心になっているようだ。2017年には「ブラック・フ―ディー」で、2020年には「バム・ラッシュ」で、グラミー賞のベスト・メタル・パフォーマンス部門にノミネートされ、「バム・ラッシュ」は受賞している。この快進撃は、今作のプロデューサーであり、楽曲制作にも大きくかかわっているウィル・パットニーの貢献が大きいようだ。この2曲は、日本盤のみ、新作『マーシレス』にも、収録されている。
そして、そのボディ・カウントの新作『マーシレス』はアルバム・タイトル通り、容赦のない作品だ。このアルバムはCentury Mediaからのリリースのため、日本ではソニーミュージックからのリリースとなり、僕が担当をしている。こういう過激なバンドは、なかなかハンドリングするのが難しい。今回はまずアルバムのジャケット写真を差し替えなくてはいけなかった。ネットを見るとすぐに見つかるはずだが、オリジナルはかなり過激なジャケット写真なのだ。そして、このジャケット写真と連動した、アルバム・タイトル曲のミュージック・ビデオも公開になったばかりだ。ここには掲載しないが、これも超過激な内容だ。
このアルバムは超過激な作品なのだが、素晴らしいヘヴィ・ロック・アルバムなので、ヘヴィな音楽ファンはぜひこの機会に一度聴いてほしい。日本に住んでいると、伝わりにくいが、人種差別、銃社会、アメリカの闇の深さを感じる。アメリカで生き抜くのは、めちゃめちゃタフなのだろう。このアルバムのラストの曲は「マイク・コントラクト」という曲で、セルフ・カヴァーなのだが、これがめちゃめちゃかっこいい1曲でおすすめだ。とにかくアルバムはハードな仕上がりだ。しかし1曲だけ例外がある。それがリード・シングル「コンフォタブリー・ナム」だ。これはピンク・フロイドの名曲のカヴァーだが、サビを除き、全編アイス-Tによる新しい歌詞なのだ。この曲の新しい歌詞を聴いて、デヴィッド・ギルモアがギター・ソロでの参加を名乗り出てくれたということで、全編で彼の素晴らしいギター・ソロが堪能できる。アイス-Tのソフトな面が出た1曲で、世界で起こる紛争や問題に目を向けながら、若い世代に語りかけているのだ。
銃を撃ったことも、撃たれたこともある俺だから言えることがある。さすがに元ギャングのアイス-Tも、御年66歳ということだろうか。しかしこの曲を除けば、アルバムは、切れ味鋭い歌詞と歌で、まさに容赦のない作品だ。レイモンド・チャンドラーの名言ではないが、「強くなくては生きていけない。やさしくなければ生きる資格がない」といったところなのだろうか。こうなれば、アイス-T本人も熱望していることだし、30年以上ぶりの、来日公演も実現してほしいものだ。