STATIC-Xのイーヴル・ディスコ(悪のディスコ)に酔いしれる
1999年は、STATIC-Xという、愛すべきヘヴィ・ロック・バンドがワーナー・ブラザーズからデビューした年でもあります。本国からわずか、5か月遅れの8月25日にデビュー・アルバム『ウィスコンシン・デス・トリップ』の日本盤をリリースしているのですから、力が入っていたことがわかります。というのもフロントマンはもちろん逆立ちヘアーのウェイン・スタティックですが、リード・ギターで日本人のコーイチ・フクダがさんがバンドにいたことも大きな理由でした。ですので、STATIC-Xにとって、日本は重点テリトリーの一つだったのです。アルバムのリード・シングルは「プッシュ・イット」、セカンド・シングルは「アイム・ウィズ・ストゥーピッド」で、このビデオはお気に入りでした。
デビューの時から、彼らはヘヴィ・ロックに、ダンサブルなリズムを融合した自らの音楽をイーヴル・ディスコ(Evil Disco、悪のディスコ)と呼んでいました。翌年2000年に初来日公演も実現し、今はもうないライヴ・ハウス、梅田ヒートビートで緊張しながら、楽屋で会ったのを覚えています。というのも、ウェインも、ベースのトニー・カンポスもデス声のステージの姿しか、知りませんでしたから、僕はびくびくしていたのです。ところが2人とも、ソフトな感じで、ステージでの姿とは全くちがったのです。ウェインはKISSの大ファンということで、ステージではウェイン・スタティックを演じていたのでしょう。ケン・ジェイはジェントルマンそのものでしたし、コーイチさんとは日本人同士、普通に日本語で話をしたのを覚えています。
初来日公演は大成功とまではいきませんでしたが、翌年リリースの『マシーン』は、ロサンゼルスで現地取材を行うほど、力をいれました。ウエスト・ハリウッドの名門ライヴ・ハウス、ザ・ロキシーでショウケース・ライヴを見たのも、良い思い出です。その様子は「ディス・イズ・ノット」のミュージック・ビデオとなっています。ただ、その時にはコーイチさんは、自らの音楽を追求するため脱退し、トリップ・アイゼンが後任ギタリストになっていました。
その後、バンドは2003年に『シャドウ・ゾーン』をリリース、するとケン・ジェイが脱退し、ニック・オシロが加入。ちなみに、あまり知られていませんが、オシロさんも、後年来日した時に話をしたところでは、日系と言っておりました。そして、2005年に『スタート・ア・ウォー』をリリースすると、今度はトリップ・アイゼンが未成年者との性的問題で、逮捕され、バンドを首になってしまいます。そしてコーイチさんが復帰と、不動のメンバーであるウェインとトニーを除き、メンバーは流動的ながら、安定して、クオリティーの高い作品をリリースし続けていました。日本盤はリリースになりませんでしたが、CDとDVDでライヴを収録した『Cannibal Killers Live』が僕の愛聴盤です。これから初めてSTATIC-Xを聴く人がいれば、このアルバムをストリーミングで聴くのが、おすすめです。
しかし、2014年に悲劇的なニュースが耳に飛び込んできます。ウェインが亡くなったのです。バンドの解散後でしたし、様々な報道があったように、非常に困難な状況にあったようです。
もうすぐ、グラミー賞ですが、2007年と2008年にロスのステイプルズ・センターで行われた式には、僕も行くことができました。いつもショウのあとには、各レコード会社のパーティーがあり、ワーナー・グループのパーティーに行くと、ウェインは2年続けてきていて、いろいろ話をしたのを思い出します。彼は日本のファンのことをいつも考えてくれていました。普段、髪を立てていないときの彼はキャップをかぶっていました。彼は普段はとてもソフトに話し、あの独特な笑い方も、今でもよく覚えています。
ところが、STATIC-Xは今復活を果たし、なんとアルバムをリリースし、ツアーををやっています。
しかも、ウェインを除く、オリジナル・メンバーの3人、トニー・カンポス、コーイチ・フクダ、ケン・ジェイがそろっています。新しいシンガーとしては、Xer0が参加しています。25年たった今も、STATIC-Xの音楽は全く古びていません。これからもSTATIC-Xのイーヴル・ディスコは、ライヴでプレイされ続けるのでしょう。<次回に続く>