Robinhood Investor Day 2024 - テクノロジーシフトの捉えかた
テクノロジー業界では、年末を締めくくる一大イベントであるAWS re:Inventが12月1週目に開催され注目を集める中、12月4日にオンライン証券サービスRobinhoodのInvestor Dayも開催されました。金融サービスを提供する同社のイベントですが、議論の多くがテクノロジーに関する内容で占められており、非常に興味深いものでした。
以前に電通総研のリサーチレポートでRobinhoodの最近の躍進について取り上げましたが、今回のInvestor Dayでは、さらにその先を見据えたビジョンが語られました。ここでは、特にテクノロジーシフトが引き起こす変化と、それに伴う戦略や新たな機会について、筆者の視点からとりあげてみたいと思います。
特に興味深かったところは、先述のレポートにおける後段「スタートアップならではの野心」でとりあげたところが、まさに今回のInvestor Dayで語られていたことでした。ポイントは以下です。
グローバル展開
クリプトへの取り組み
グローバル展開
まずRobinhoodは今後の事業展開として、タテとヨコで戦略を考えていると捉えています。タテは、証券以外に先物・オプション・クリプトなどと扱う資産クラスのバリエーションを増やしていき、またIRA(Individual Retirement Account=日本のiDeCoに相当する退職貯蓄プラン)なども提供を開始しています。そしてヨコはまさにこのグローバル展開で、米国ユーザー向けに開発したものを他地域へ展開する考えが述べられました。
上記スライドを見て気付くことは、英国および欧州でのサービス開始は既に出ていたものの、今回新たにAPACエリアへの進出が述べられました。同社CEOのVlad Tenevの説明ではシンガポールにAPAC HQをローンチするとのこと(東京ではないんですね。)。また、3つのマーケットのライセンスを獲得するとのことなので、もしかしたら日本も含まれるのでしょうか!?(beyond APACといってたので、違うかもですが。)
地域軸で言えばそれ以上でも以下でもないのですが、何より興味深いのは、この文脈でstablecoin・tokenizationが述べられていることだと思います。ここからVladの説明は主にテクノロジーの話に入っていきました。その導入の仕方としては、「金融サービスの地域軸での展開は、アクイジションを通じて進めることが多い。しかしこれは、高いし、システムも重複するし、マーケット間でのオファリングや互換性を取るのが難儀という課題がある。Robinhoodはグローバル展開を想定した思想で全てが造られているからそのアプローチはとっていない。」と、同社がテクノロジーネイティブであることを強調していました。
クリプトへの取り組み
テクノロジーカンパニーとして、業界を変え得る2つ(「AI」「クリプト」)の大きなシフトへの着目とインサイトを述べられていました。ここでは後者を中心に取り上げてみたいと思います。
クリプトというと、安っぽく今更感があるように聞こえるかもしれませんが、同社はクリプト冬の時代においても継続して取り組んできていました。今年に入ってもクリプト関連のリリースは頻繁に行われていました。今回のグローバル戦略の中でのクリプトの位置付け説明は、先述のレポートにおいて私が気になっていたことに対する答えな気がしています。
Vladの説明によると、彼らはクリプトを新たなユーザー向けに提供するアセットクラスとしてだけではなく、金融サービスのインフラを変えうるものとして捉えています。理由は2つで、1) 従来のブロケージの仕組みに対して、クリプトの仕組みは1/10ほどのコストで済む効率性を持つことから、今後より金融システムとして融合していくであろうと考えていること、2) stablecoinはネイティブブロックチェーン上での取引の多くを占めるに至っており(VISA取引の半分のボリュームになったなど)、クリプトのシステムの本質であるtokenizationが金融システムとしても重要になってきていること。
上記のようにstablecoinはより市民権を持っていく動きにあると考えられます。他方でまだいくつかの課題はあり、例えば通常の通貨のように保持することによるYieldが無いことなど挙げており、それらの課題解決に期待してUSDG/Global Dollar Networkとパートナーシップを構築しています。
まとめ
これまでのIR情報や今回のInvestor Dayの内容を振り返ると、一言でいえば総合金融サービス化なのですが、今回取り上げたテクノロジーシフトやそれを起点に起こっているトレンドシフトと合わせた質的な転換がインサイトだと思います。単純な扱うアセットクラスとサービス地域軸の拡大ではなく、クリプト・ステーブルコインとの掛け合わせた戦略は、今後の新しい金融サービスとしての進化が期待できます。これを裏付けるユニットエコノミクスなどは、また機会があれば掘り下げてみたいと思います。そして、今後ステーブルコインが如何に市民権を獲得していくかも興味深く、自分が把握しているだけでもいくつかあるので、それらも機会あれば取り上げてみたいと思います。
Robinhood Investor Day 2024は3時間にわたるイベントだったので、これ以外にも興味深い発表やビジネス状況のアップデートがありました。機会があればまとめて取り上げてみたいとも思いますが、まずはCEOのVlad Tenevからあったビジョン面についての感想でした。