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不定詞について思考
「英語を上達させるには、何をすべきですか?」
英語を教える立場の者としてよく聞かれる質問です。
もちろん質問者のレベル・目的・状況に応じてアドバイスは変わりますが、「不定詞の使い方をマスターして下さい」と返答する割合は思いのほか高いです。
動詞は英単語の約30%を占め、名詞に続き二番目に大きい単語クラスですが、使用制限があります。
それは、英文の基本ルール「1つの文において主語に対する動詞は1つ」という原則です。
"He likes play the piano."
「彼はピアノを弾くことが好きだ」と表現したい場合、上記の文は成立しません。主語の "He" に対して動詞の "like(s)" を使っているため、続けて動詞の "play" は使えません。
このゴールデン・ルールをバイパスするために用いられるのが、連鎖動詞 ("catenative verbs") というカテゴリーに属する不定詞です。「キャティネイト」 ("catenate") はラテン語で「鎖」という意味です。
同じ句内で別の動詞が続く場合、この2番目の従属動詞は、不定詞の形式にすることができます。
不定詞とは、動詞の原形のことを指し、辞書では動詞の見出し語として使われています。
「動詞の原形」と言いますが、あくまで動詞を名詞・形容詞・副詞として扱うのが不定詞です。
従って不定詞は文の主動詞として機能しません。
時制・人称・数によって変化しない動詞を非定形動詞("non-finite verb")と呼びます。簡単に言ってしまえば、動詞の意味を持ち合わせてはいるが、純粋な動詞としては機能しないものです。
"He likes to play the piano."
不定詞の "to play" は、名詞として機能するので上記の文は成立します。主語の "He" がアクション(動詞)の "like(s)" を実行するとき、不定詞の "to play" は動詞の対象として「何を?」という質問に答えることができます。
不定詞には、 "to" が付く「完全不定詞」と、"to" が付かない「原形不定詞」の二種類あります。
完全不定詞("full infinitive")
仕組み:to + 動詞の原形
例:to + go → "to go"
まずここで留意していただきたいポイントは、完全不定詞の "to" は前置詞の "to" ではないということです。
見分け方は簡単です。
前置詞の後は、名詞が続くので、"go" のような動詞の場合は、完全不定詞です。
前述したように、不定詞は動詞を名詞・形容詞・副詞として扱います。
名詞的用法
"To visit is what they promised."
「彼らは訪問することを約束した」
"I love to swim."
「私は泳ぐことが好きだ」
"My goal is to graduate."
「卒業することが私の目標だ」
名詞は、文の中で主語(S)・目的語(O)・補語(C)として使われるので、不定詞がその役割を担います。一番よく使うのは例文2(O)と例文3(C)です。
形容詞的用法
"Wherever Jack goes, he always brings a book to read."
「ジャックはどこへ行くにも、読書できるように必ず本を持って来る」
"Please give me something to drink."
「何か飲み物をください」
不定詞の "to read" と "to drink" が名詞の "book" と "something" を修飾しています。
副詞的用法
"Peter braved the awful weather to throw the rubbish out."
「ピーターはゴミを捨てる為、悪天候に耐えた」
"I’m happy to help."
「喜んで手伝います」
副詞は動詞・形容詞を修飾します。
例文1は、なぜピーターが悪天候に耐えたのかを不定詞の "to throw" が説明していて、例文2は、喜びを "to help" で具体化しています。
ここまで読んで「わかった」と思う人は多いと思います。
しかし、それと同時に「使ってみて下さい」と言われて「了解です!」と返答する人は少ないような気もします。
理由は、情報を処理するのに手間がかかるからです。
あくまでも私見ですが、外れ値を除けば、人の「インプット」する能力にさして差はありません(解像度という側面を重視する場合、ボラティリティは大きいように感じます)。
では、人の能力的差はどこで生まれるのか。
「アウトプット」です。
新しい仕事、趣味、知識などを身につける際、アウトプットの上手さが極めて重要だということに帰結します。
「覚える」ことに意識がいきすぎるあまり、「活用」についての思考が疎かになる。私含め大半の人は思い当たる節があるはずです。
アウトプットを上手くするには、必要不可欠・必要最低限の情報を「抽出→簡略化→効率良く処理」する能力が重要になります。要するに英語を話す上で、どれだけ脳の負担を減らすかがポイントになります。
さて、ここで一旦話を戻します。
名詞・形容詞・副詞なのかを一々考えながら話すと混乱するのがオチです。ネイティブの人でさえ、そんなことを考えながら話しません。
文法の「原則」を理解する。そしてシチュエーション(状況)に応じて不定詞を「感覚的」に使う。インプットとアウトプットを明確に区別化することでアウトプットが円滑になります。
I. 目的を表したい時・「何故?」という疑問に答える 【~するために】
"Jack went to the internet café to play computer games."
「ジャックはコンピューターゲームをしにインターネットカフェへ行った」
(目的:コンピューターゲームをする...【ために】)
"I bought some ingredients to bake a birthday cake."
「私は誕生日ケーキを焼くために材料を買った」
(目的:誕生日にケーキを焼く...【ために】)
"He bought some flowers to give to his girlfriend."
「彼は彼女にあげるために花を買った」
(目的:彼女に花をあげる...【ために】)
II. ある特定の動詞の後に完全不定詞を置く 【~すること】
「考える」・「感じる」というニュアンスを含む特定の動詞の後に完全不定詞を置くことで「〜すること」という表現ができます。
Choose(選ぶ)
"I chose to take part in a volunteering project."
「私はボランティアのプロジェクトに参加することにした(選んだ)」
【参加すること】
Decide(決める)
"I decided to take my dog for a walk."
「私は犬を散歩に連れていくことにした」
【連れていくこと】
Expect(期待する)
"I expect to do well on today’s test."
「今日のテストうまくいくことを期待している」
【うまくいくこと】
Forget(忘れる)
"I forgot to hand in my homework."
「私は宿題を提出するのを忘れた」
【提出すること】
Hate(嫌う)
"I hate to see my team lose."
「自分のチームの負ける姿を見ることは嫌い」
【見ること】
Hope(希望する・願う)
"We hope to save up money for a holiday."
「私たちは休みのためにお金を貯めることを願っている」
【貯めること】
Intend(意図する・つもり)
"He intends to see out the remainder of his contract."
「彼は残りの契約を最後までやり遂げるつもりだ」
【やり遂げること】
Learn(学ぶ・知る)
"She learned to speak English over summer."
「彼女は夏の間、英語を話すことを学んだ」
【話すこと】
Like(好き)
"I like to watch movies on the weekend."
「私は週末に映画を観ることが好きだ」
【観ること】
Love(愛す)
"She loves to cook."
「彼女は料理をすることが好きだ」
【料理をすること】
Mean(意味する・するつもり)
"I meant to give you a call yesterday."
「昨日、あなたに電話をするつもりだった」
【電話をすること】
Prefer(好む)
"I prefer to study on my own."
「私は独学をすることを好む」
【独学をすること】
Remember(思い出す・覚えている)
"Remember to turn the lights off."
「電気を消すことを忘れないでね」
【消すこと】
Want(欲しい)
"We wanted to throw you a birthday party."
「私たちはあなたの誕生日パーティーを開きたかった」
【開くこと】
「言う」というニュアンスを含む特定の動詞の後に完全不定詞を置くことで、同じく「〜すること」という表現ができます。
Agree(同意する・賛同する)
"We agreed to meet at the museum."
「私たちは博物館で待ち合わせること(同意)にした」
【待ち合わせること】
Promise(約束する)
"Promise to call me when you get home."
「自宅に着いたら私に電話することを約束して」
【電話すること】
Refuse(拒否する)
"He refused to give up his seat."
「彼は席を譲ることを拒否した」
【譲ること】
Threaten(脅す・脅迫する)
"They threatened to sue."
「彼らは訴えると脅した」
【訴えること】
III. ある特定の形容詞の後に完全不定詞を置く 【理由・意見】
特定の形容詞の後に完全不定詞を置くことも可能です。この場合、主動詞はbe動詞です。
Able(できる)
"Unfortunately, I was unable to work for over a week."
「私は残念ながら一週間以上仕事ができませんでした」
Ready(用意ができて・準備ができて)
"I'm exhausted. I'm ready to go to bed."
「疲れました。私はもう寝る準備ができている」
さらに、ある特定の形容詞の後に完全不定詞を置くことで、形容詞の理由を述べることができます。
Surprised(驚く)
"I am surprised to see you."
「君に会えるとは驚いたよ」
形容詞の "surprised" を "to see" の完全不定詞で(なぜ驚いた)説明する。
これを言い換えると以下のようになります。
"I am surprised because I saw you."
「(私は)君に会えたから驚いた」
そして、「"It" + be動詞 + ある特定の形容詞 + 完全不定詞」を組み合わせることで意見を述べることもできます。
Difficult(難しい)
"It is difficult to judge a book by its cover."
「本の中身を装丁で判断するのは難しい」又は「人を見た目で判断するのは難しい」
Easy(簡単)
"It's easy to play the guitar, but it's very difficult to play well."
「ギターを弾くことは簡単ですが、上手に弾くのはとても難しいです」
原形不定詞("bare infinitive")
さて、ここからは "to" が付かない不定詞について解説していきます。
例:love
原形不定詞には、二つの用法があります。
I. 特定の法助動詞("modal auxiliaries")の後に不定詞を置く時
仕組み:法助動詞 + 原形不定詞
法助動詞の後には必ず原形不定詞が来ます。
ここで、多くの方は「法助動詞?」と疑問に思うはずです。
日本では、「助動詞」として覚えます。
"I play the guitar."
「私はギターを弾く」
"I can play the guitar."
「私はギターが弾ける」
助動詞は言葉通り、動詞を助ける役割を担います。法助動詞も同じような感覚で捉えていただいて大丈夫ですが、海外では助動詞と法助動詞を区別化します。全ての法助動詞は助動詞の部類にカテゴライズされますが、純粋に法助動詞を名乗れる助動詞は限られています。それが以下のものです。
Will:強い意志・要求・提供...など 【~する】
Shall:提案...など 【~しましょうか】
Would:要求・好み・仮定条件・提供/助言/意見(丁寧語)...など 【~であろう】
Should:義務(絶対ではない=50%ぐらい)・助言・論理的結論...など 【~すべき】
Can:能力・許可・可能性...など 【~することができる】
Could:過去の能力・許可(丁寧語)・可能性...など 【~できるだろう】
May:許可・可能性/確率...など 【~してもよい】
Might:許可(丁寧語)・可能性/確率...など 【~かもしれない】
Must:強い義務感・絶対...など 【~しなければならない】
さて、法助動詞の役割ですが、人(話し手)の感情を的確に表す(特定の状態)ことです。
例えば、「確実性」・「可能性」・「意欲」・「義務」・「必要性」・「能力」を動詞の意味に上乗せるイメージです。
「英語が淡泊になりがち」という悩みをよく聞きますが、そういった方は十中八九法助動詞を使いこなせていません。細かい感情やニュアンスを微調整することに長けている法助動詞は、英語を話す上で非常に重要な役割を果たします。
以下の例を見てみましょう。
"The manager will need everyone’s schedule for this month."
「マネージャーは全員の今月のスケジュールが必要です(必要になるであろう)」
"You must bring your ID to enter the building."
「建物に入るには身分証を持って来てください」
"I could not read the article because it was in Spanish."
「(私は)記事がスペイン語で書かれていたので読めなかった」
主語が持つ感情である必要性(will)・義務(must)・能力(could)を原形不定詞に付与しています。
II. 特定の動詞の後に不定詞を置く時
仕組み:一次知覚・許可・使役動詞 + 直接目的語 + 原形不定詞
一次知覚動詞("primary perception verb")である"watch"・ "see" ・ "feel" ・ "hear" ・ "smell" や、
許可・使役動詞("permission・causative verb")の "make" ・ "let" ・ "have" の後にも原形不定詞が続きます。
一次知覚動詞は人(話し手)の感覚を表す動詞です(例:見る・聞く・感じるなど)。
"As soon as Harry felt the ground shake, he knew it was an earthquake."
「ハリーは地面の揺れを感じた瞬間、地震だとわかった」
"Caroline watched her little brother play in his first professional football match."
「キャロラインは弟が初めてプロとして出場するサッカーの試合を観た」
ちなみに一つ補足すると、一次知覚動詞の後は原形不定詞・現在分詞、どちらを使ってもOKです!現在分詞の方が目的格の行動自体に当てるスポットライトが若干強いような気もしますが、形式的選択としての使用だと理解していただいて大丈夫です。
"I heard her leave the house in the morning."
「私は、今朝彼女が家を出るのが聞こえた」
"I heard her leaving the house in the morning."
「私は、今朝彼女が家を出て行くのが聞こえた」
"I saw her run towards the house."
「私は彼女が家に向かって走るのを見た」
"I saw her running towards the house."
「私は彼女が家に向かって走って行くのを見た」
使役動詞は「(人に)~をさせる」といった意味を持つ動詞です。
"They let me dance."
「(彼らは私に)躍らせてくれた」
"I let the dog finish my food."
「私は犬に残り物を食べさせてあげた」
"You made me clean yesterday."
「昨日、あなたは私に掃除をさせた」
"I had her design the model house."
「私は、彼女にモデルハウスをデザインしてもらいました」
ご参考になれば幸いです。最後までご覧いただきありがとうございました。