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現在完了形について思考

英語で過去のことを話す際、単純過去形("Simple Past Tense")がデフォルトになっていませんか?

私が英語を教えていて思うのは、意識のあるなしにかかわらず、現在完了形("Present Perfect Tense")をフル活用できていない人が思いの外多いという事実です。

文法のストラクチャー自体は簡単なため、日本教育では中学生の頃に触れる文法ですが、日本語にはない概念なのでイメージしにくいはずです。

「しょうがない」と言ってしまえばそれまでですが、現在完了は英語の中核を担う文法なので避けては通れません。

仕組み:"have(has)" + 過去分詞

否定文:"not" を "have" と過去分詞の間に入れる。
疑問文:主語と助動詞の "have" の位置を。

大雑把ですが、「過去」と「現在」、この二つの時制を繋げるイメージをして下さい。

過去 →(現在完了形)→ 現在 → (未来)

過去にスタートした出来事が現在も続いている状態、その期間を表現するために使う文法です。

  • "They have been married for nearly fifty years."
    「彼らは結婚して50年近くになる」

ここから現在完了を細分化しますが、このイメージが基盤となり、そこから用法が色々枝分かれしていくので念頭に置き、読み進めて下さい。

現在完了の使い方は大きく分けて3つあります。

継続経験完了です。


さらに一つアドバイスするとしたら、日本語という言語的フィルターを通して現在完了を理解しようとしないことです。

「現在完了は英語特有の文法だ」と受け入れてください。

例えば、日本人からすれば「勉強をした」という情報は単純に過去の出来事として捉えますが、英語の場合そうはいきません。「勉強をした」状況によって使う文法が変わります。

  • "I studied English last night."
    「私は昨晩英語の勉強をした」

  • "I have studied English a lot recently."
    最近、私は沢山勉強をした」

「最近」は「昨晩」と違って、現在の状況と繋がりがあるのに加え、「いつ」なのかを特定できません。

このように動詞を取り巻くコンテキスト(文脈)が文法の選択を左右します。しかし、日本語では、どちらも「勉強をした」としか訳せません。

英語を話す際、日本語→英語に直訳している方にとっては難しいと思いますが、言語を学ぶ以上、納得できるかどうかは別として妥協点を定めることは重要です。

そもそもバイリンガルでさえ、寸分の狂いなく日本語→英語・英語→日本語に「訳す」ことはできません。

理由は明白です。

言語構造の違いは勿論のこと、両言語の歴史・カルチャー的背景が懸隔している以上、言語にはその言語特有のニュアンスが宿るためです。

少しシビアですが、「日本語のように英語を話したい」はエゴという名の足枷にしかなりません。



継続 ("Continuative")

おそらく一番わかりやすくて、馴染みのある使い方だと思います。

前述したように、過去に始まった特定の状況が今尚続いているときに使います。要するに、現在と過去の状況に関連性があるか否かが肝要になります。

日本語だと「~の間~し続けている」または「ずっとし続けている」といった表現です。

  • "The professor has taught here for two decades."
    「教授はここで20年間教えている」
    過去(20年前)→ 現在(継続中)

  • "They have played piano since the age of three."
    「彼らは3歳からピアノを弾いている」
    過去(3歳から)→ 現在(継続中)

  • "The jury has not reached a verdict yet."
    「陪審はまだ評決に達していない」
    過去(裁判が開始した時点)→ 現在(継続中)

  • "I haven't finished my dissertation yet, but it’s due in next week."
    「私は博士論文をまだ脱稿していないけど、来週が提出期限だ」
    過去(論文を書き始めた)→ 現在(継続中)

この現在完了の用法は、状態動詞("Stative verbs")と相性が良いです。状態動詞は、一時的な動作ではなく一定期間継続する状態を表す動詞で、心理状態や感覚などを表すものが多いです。

  • "I have lived in the UK since I was 8 years old."
    「私は8歳からイギリスに住んでいる」
    過去(8歳)→ 現在(継続中)
    【"Live" → 状態動詞】

  • "I have known Robin for 18 years."
    「私はロビンを18年間知っている(付き合い)」
    過去(18年前)→ 現在(継続中)
    【"Know" → 状態動詞】

  • "They have been married for nearly fifty years."
    「彼らは結婚して50年近くになる」
    過去(50年前)→ 現在(継続中)
    【"Be" → 状態動詞】

最後の文は冒頭で紹介したものです。

目的語が形容詞の "married" のため、be動詞の過去分詞 "been" を使います。

そして、現在完了「継続」は "for" や "since" を使って継続の長さ(時間軸)を明白にすることが多いです。さらに "yet" は「まだ」という意味で、否定文には必須の副詞です。

"since" は過去の固定時間(10時・月曜日・2004年・4月23日・去年・学校を卒業した日など)、"for" は一定期間(10分・2時間・3年間・6か月・長い間など)を表します。


経験 ("Experiential")

今まで「経験」したことを表せます。

日本語だと「~したことがある」・「〜したことがない」という表現になります。

  • "I have seen that movie 4 times."
    「私はその映画を4回見たことがある」

  • "They have climbed several mountains."
    「彼らはいくつかの山に登ったことがある」

  • "We have never seen that film."
    「私たちはその映画を見たことがない」

  • "I have never eaten foie gras."
    「私はフォアグラを食べたことがない」

これらの文章を見てわかるように、過去に起こったことが現在へと繋がる話をしています。過去を「経験」という目の前の「現実」に変換します。

映画を4回見たという事実が現在につながっているので、現在までに「4回映画を見た」という経験がある、と伝えているわけです。

単純過去形は過去の事を過去のまま、傍観者のように語るのに適しているため、事実ベースで物事を伝えなければならない新聞などの媒体では、単純過去形が使用される比率が高いです。

単純過去形を軸に話すと、他人事ばかり話しているような印象を与えるのに加え、英語が淡白になりがちです。一方で、現在完了形は過去の話を現在の自分と繋げて話すので、より幅広い領域で話を展開できます。

ここで留意すべきポイントは、実際にその経験を過去に「したかどうか」が着目点であり、経験を「いつ」したか・していないかは、さほど重要ではありません。

  • A君:"Have you ever been to the UK?"
    「イギリスへ行ったことある?」
    B君:"I have been to the UK three times."
    「私はイギリスに3回行ったことがある」

もちろん、単純過去形を使って経験したことを話すのも可能です。

しかし、単純過去形の "went" を使ってしまうと過去のある一点を指して、その指定したポイントについて話すことになるので、昔の経験を単発的に紹介する形になります。

現在とは切り離して、昔のこととして思い出しているようなイメージです。実際に "went" を使って上文と同じことを伝えたい場合どうなるのか?

一連のやり取りは次のとおりです。

  • A君:"I went to the UK last year."
    「私は去年イギリスに行きました」
    B君:"Was it your first time?"
    「初めてでしたか?」
    A君:"No. It was my third time."
    「いえ。三回目でした」

回りくどいですね。

過去という長い期間の中で一点を指して話すのではなく、経験を包括的に表現したい場合、現在完了が適しています。

なお、"ever" は「今までに〜ある?」という質問をする際に使い、"never" は過去から現在に至るまで一度も「〜したことがない」と否定したいときに使う副詞です。


完了 ("Anterior"/"Resultative")

①   「~し終わった」・「ちょうど〜した」

名の通り「完了」したことを表したいときに使いますが、「現在も続いてないなら単純過去形では?」と疑問に思う方も多いと思います。

最も単純過去形と混同しやすいです。

例え特定の行為が過去に起こったとしても、それが現在に直接関係しているほど最近のことであれば、現在完了を使えます。

  • "I shouldn’t eat that ice cream because I’ve just brushed my teeth."
    「ちょうど歯を磨いたところなので、アイスクリームは食べるべきではない」
    過去(歯を磨いた)→ 現在(アイスクリームを食べるべきではない)

  • "We’ve already finished practice now, so let’s go home."
    「もう既に練習は終わったので帰ろう」
    過去(練習を終えた)→ 現在(帰宅しよう)

実をいうとこの現在完了の使い方はイギリス英語によく見られます。

イギリス人は、ごく最近の出来事について話すときアメリカ人みたく単純過去形をあまり使いません。

以下の例文は、相手がご飯を食べたかどうかを聞くシチュエーションにおいて、アメリカ英語とイギリス英語の表現の違いを比較したものです。

「シボレス」の代表的な例の一つとしてよく挙げられます。要するに、同じ英語圏であるアメリカ英語とイギリス英語を見分けるための文化的指標としてよく使われている例です。

"Did you eat?" 【アメリカ英語】→ 単純過去形
「食べた?」

"Have you eaten?" 【イギリス英語】→ 現在完了
「食べた?」

(食べ終わったというニュアンスが乗っかる)

実際、ある言語研究の結果によると、イギリス英語の方がアメリカ英語より現在完了を使う傾向にあるというデータが出ています。おそらく、後者はラテン語との関係がより色濃く残っているため、英語が「古風」になりやすいのも現実としてあると思います。以下の例文を比べてみましょう。

  • "I finished work." → 単純過去形
    「私は仕事を終えた」

  • "I have just finished work." → 現在完了
    「私はたった今仕事を終えた」

現在完了形を使った文の方が、「たった今」終わったというニュアンスを含みます。

そして副詞の "just" は、「たった今」を強調する為に過去分詞の "finish" を修飾します。"I finished work" では具体的にいつ仕事を終えたのか伝わりません。

私見になりますが、イギリス人がこのような場面で単純過去形を使わないのは、不確実性を避けるためです。そう考えると、会話をする上で、描写のフレーミング要素としての実用的な機能を有している文法だと思います。


②   変化について話す

さらに、何か新しい変化や情報について話したいときも現在完了を使います。

つまり、過去と現在を比べたときの「変化」が集点になります。

  • "Has the price gone up?"
    「(商品の)値段上がった?」
    新しい変化:値上がり(過去)→ 今は?(現在)

  • "I have lost my keys."
    「私は鍵を無くした」
    新しい変化:さっきは鍵があった(過去) → 今は鍵がない(現在)

  • "I have bought a bike."
    「私はバイクを買った」
    新しい変化:先週はバイクを持っていなかった(過去) → 今はバイクを持っている(現在)

  • "My niece has grown so much since I saw her two years ago."
    「私の姪は2年前に会ったときより大きくなった」
    新しい変化:2年前に会った(過去)→ 成長した姪(現在)

  • "I have become better at chess over the years."
    「私は時間が経つにつれて、チェスが上手になった」
    新しい変化:チェスが上手くなかった(過去)→ 上手くなった(現在)


ご覧戴き、ありがとうございました。

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