第12回/或る男の退団~ステファン・ラドゥ

※noteさんから「今月も更新しないと」とお尻を叩かれ
何とか更新している次第である。

5月末に入った。
日本ではGWが終わり、祝日がない6月を迎えようとしており
陰鬱な日々を送る方も多いと思う。
一方欧州フットボールはまさに大詰め。
各国リーグの優勝や降格が決まり、
CL、EL、ECLといった欧州カップも残すところ決勝のみという状況である。
ファンの皆様はそろそろ贔屓のチームの今シーズンの総括に入る頃ではないだろうか。

そしてこの時期は新シーズンに向けての戦力整理が発表される頃でもある。
チームに新戦力が加わる嬉しい発表がある一方、
チームを去る選手のアナウンスもある。
今回はイタリアのマイチーム・ラツィオを長年支え
今シーズンで退団することになったステファン・ラドゥについて、
長年の貢献に感謝の意味も含め、触れてみたいと思う。

加入直後くらいの頃のラドゥ(左)。なんとなくあどけない。髪もフサフサである。
https://www.gsp.ro/international/stranieri/stefan-radu-viata-de-noapte-nu-exista-pentru-mine-170813.html

ステファン・ラドゥは1986年10月22日生まれの現在36歳。
ルーマニアのディナモ・ブカレストのユースで育った。
ディナモ・ブカレストは古くはコスミン・コントラ、ヴィオレル・モルドヴァン、近年は(といっても10年以上は経つが)エイドリアン・ムトゥ、シプリアン・マリカといった多くのルーマニア代表を輩出した名門クラブである。
そんな名門で2005年にデビューを飾り、活躍が認められると
2008年ラツィオに加入。
今シーズンが16年目のシーズンであった。
加入当時、まさかこれほど長く在籍する選手になるとは筆者も想像していなかった。

ポジションは加入当時左SB。
正直加入の頃の筆者の印象は「悪くはないけど、パッとはしないなぁ」というもの。
当時から対人の守備力は高かったものの、SBとしては攻撃参加という部分では物足りなさがあった。
決してスピードがあるわけでもなく、
良くも悪くも「総合力は高いけど、武器がないかな」という感じであった。
その点、当時ポジションを競うこともあったセナド・ルリッチは分かりやすい運動量と技術、ポジショニングセンスを持っていたので、「彼の方が良いのでは」と個人的に推していた。


その個人的評価が変わったのがシモーネ・インザーギ政権下での3バックの左CBのコンバート。
彼のキャリアハイライトを振り返ると、やはりこのポジションであったような気がする。
このポジションで固定されると元来の対人の強さに加え
SB時よりもボール保持の時間が増えたことから、彼のポゼッションの上手さやロングキックの正確さが分かるようになった。
このポジションを固定されたことで「総合力が高い」という特性が存分に発揮されたように見えた。
ハイライトは2018-19シーズンのコッパ・イタリア決勝 VSアタランタの試合だろう。
ベンチスタートだったラドゥだが、
アタランタとの戦術ミスマッチを感じたインザーギは、前半途中にも関わらずCBのバストスに代えてラドゥを投入する。
すると彼を起点にボールが動き始め、最終的にラツィオが勝利し優勝を果たした。
彼の持つポゼッション時のバランスの良さが光った試合であった。

ここ数年は加齢、そして新たに監督に就任したマウリツィオ・サッリが4バックの体制を敷いたことで出番が限られるようになった。
そして今シーズンをもって、16年所属したチームからの退団が発表された。

2023年5月28日
ラツィオはシーズンホーム最終戦でクレモネーゼを迎えた。
前半4分にエルセイド・ヒサイ、
前半37分にセルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチのゴールで2-0。
(2点目のペドロとセルゲイの2人で仕上げてしまうゴールは圧巻)
しかし、後半はリードしたことで受けに回ってしまったのか
2失点を喫し、2-2の同点に。
しかし後半44分再びミリンコヴィッチ=サヴィッチがCKからのチャンスを押し込み3-2。このままラツィオはホーム最終戦を有終の美で飾った。
そして後半46分、今シーズンで退団が決まったラドゥがマッティア・ザッカーニに代わって今シーズン初出場。
出場時にはチーロ・インモービレからキャプテンマークを受け取り、腕章を巻いてプレー。
ホームサポーターへの惜別の出場となり
試合後は退団セレモニーが行われた。
サポーターの声援、そして選手みんなに胴上げされる姿から
いかにこの選手が愛されていたかが分かった。
ちなみにチーム関係者からは"Boss"の渾名で親しまれていたようだ。

カピタンのインモービレから記念のユニを受け取る。
終始涙をこらえる姿が印象的であった。
チーム公式Instagramより。

引退するのか、他のチームに移籍するのか。
色々なメディアに目を通したのだが、分からない(情報を持っている方は教えてください)。
しかし、いつの日か選手時代、
いや人生の大半を過ごしたこのクラブに戻ってきてほしい。

個人的にパヴェル・ネドヴェド、シニサ・ミハイロビッチ、デヤン・スタンコヴィッチ、ゴラン・パンデフ、ルリッチ、ミリンコヴィッチ=サヴィッチ、ドゥサン・バスタといった東欧系の選手と、このクラブの親和性が高いと感じている。
現SDのアルバニア出身イグリ・ターレの影響も大きい部分があると思うが
ラドゥにはそのあとを継いでもらって、また面白い東欧系の選手を引っ張ってきてもらいたい。

とにかく、16年間お疲れ様でした。
Grazie, Stefan!



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