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おじさんのおじさんによるおじさんのための休息の場、水道橋のサウナ「ASUKA」の思い出

9月11日の朝、残念なニュースが飛び込んできました。東京ドームや後楽園ホールからほど近い、水道橋西口の「サウナ&カプセルホテルASUKA」(以下、アスカ)が、9月10日をもって閉店したことが報じられました。「新型コロナウイルスなどの諸事情により」というのが閉店の理由とのこと。東京ドームや後楽園ホールでのイベントの制限、あるいは飲食店の営業時間の短縮などにより、カプセルホテルの利用者が減少していたことは容易に想像できます。また、アスカの雑魚寝部屋は不特定多数の人と濃厚接触の場であり、利用を躊躇する人も多かったことでしょう。とにかく残念なニュースです。

ベースボール・マガジン社に在籍した時代、週刊誌をつくっていた10年間は、追い込み作業となる日曜日には家の布団で寝たことはなく、毎週月曜日の朝にアスカを利用していました。20代半ばから30代半ばまでの10年間、アスカは生活の一部となっていた場所なのです。今回は、そんなアスカの思い出を書いていきましょう。

まずはアスカの構造から紹介します。建物の3階が受付。このフロアにロッカーと大浴場(サウナ)があります。毎週利用しているため、受付のスタッフさんとは当然顔なじみです。無料サービス券をこっそりもらうこともありました。受付を済ませると、館内着とタオル(大・小)を渡され、ロッカーに荷物を入れて着替えます。

2階がスナックコーナーで、ここで食事をしたり、サウナ後のビールを飲んだりもできます。ただし、私の場合は仕事終わりの早朝の利用であり、数時間後にはすぐに仕事が始まるため、のんびりビールを飲むことはありませんでした。

5~6階がカプセルホテルですが、個室を利用するなんて贅沢はしません。基本的には私やBBMの社員が利用していたのは4階の雑魚寝部屋。この雑魚寝部屋がなんといってもアスカの醍醐味です。頭の部分だけに仕切りがついた簡易ベッド(ベッドと呼べるようなものではないけど)がフロア全面にギッシリと敷き詰められていて、そこはさながら“おじさん博覧会”。右を見てもおじさん、左を見てもおじさん、足元にもおじさん……日本のありとあらゆるおじさんたちが所狭しと寝ています。おじさんバンザイ!

早朝5~6時くらいに雑魚寝部屋にいくと、飲んで帰宅できなかったおじさん、あるいは出版社の徹夜仕事終わりのおじさんたちによる、いびきの大合唱が始まっています。「こんなうるさいところで寝られない!」と思いつつも、疲弊しているためあっさり眠ることができます。

しかし、眠っていても油断してはいけません。時折、寝返りをしながら仕切りを越えて人のスペースに入り込んでくるおじさんが出没するからです。寝返りおじさんが出没したら、容赦なく蹴り飛ばして自分のスペースを守ります。そうしなければ自分の寝床をおじさんに奪われてしまうのです。冬場で人の毛布を引っ張るおじさんが出没したときも、同じく蹴り飛ばして毛布を守ります。そう、アスカの雑魚寝部屋は戦場なのです。

年末はとくに混んでいて、雑魚寝部屋は足の踏み場もないほどおじさんが敷き詰められているときもありました。廊下で寝るおじさんもいるなか、猛烈な睡魔に襲われていて少しでも寝たかったときは、階段を毛布で平らにして斜めになって寝たこともあります。

どんな場所でも、どんな騒音のなかでも、どんなおじさんが襲ってきても眠れる。アスカではサバイバル力を身につけさせてもらったと思っています。

次の作業や取材が詰まっていて寝る時間がないときは、目を覚ますためにサウナに20~30分だけ入るというときもありました。当然、サウナ室もいろいろなおじさんがいます。会社では喋ったことのないおじさん(他部署の先輩)と一緒になり、仕事の話をしたりということもありました。

アスカの思い出を……と思いましたが、思い出されるのは多種多様なおじさんばかり。「おじさん、おじさん言うけど、オマエもおじさんじゃないか」と思ったそこのアナタ、一応お断りしておくと、当時の私はおじさんではありませんでした。

おじさん完全体となった今、おじさんのおじさんによるおじさんのための休息の場、アスカの閉店は残念でなりません。もう一度、行きたかったな。

おわり。

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