プロレス大賞の選考エピソード
2022年の東京スポーツ新聞社認定プロレス大賞(以下、プロレス大賞)の各賞が発表されました。受賞された選手の皆さん、おめでとうございます。
というわけで今回はプロレス大賞の話を書いていきましょう。といっても、現在はプロレスの仕事をしていないので、今年のプロレス大賞にモノ申す!みたいな話ではありません。私が選考委員を務めさせていただいていたときのエピソードを紹介したいと思います。
プロレス大賞の選考委員は東スポの記者、カメラマンと、各スポーツ紙の記者、プロレス専門誌の編集長(編集次長)、サムライTV代表、評論家という形で25名前後だったと記憶しています。私は週プロの編集長だった2007~2009年と、編集長の代理で2006年の計4回、選考委員として参加させていただきました。
あくまでも東スポのプロレス大賞であり、また、選考委員の中では若手だったこともあり、あまりしゃしゃり出るのもどうかと思いつつ、選考委員長の柴田惣一さんから「一番いろいろな団体を見ているだろうからドンドン意見を言ってください」とリクエストを受けていたこともあって、積極的に自分の意見を言わせてもらっていました。
2009年、私にとって最後に参加した選考会で事件(?)は起きました。起きました…というか起こした張本人が私なのですが…。
選考はMVPから始まり、ベストバウト、最優秀タッグ、殊勲賞、敢闘賞、技能賞と進んでいきます。新人賞の後に特別賞、話題賞などのその年ならではの賞の議論があり、最後に女子プロレス大賞の話となりました。
2006年の全日本女子プロレス、GAEA JAPANの崩壊後、女子プロレス界は暗黒期に入っていて、2004年以降、5年連続で「該当者なし」という状態が続いていました。この年も女子プロレス大賞の選考のときには「該当者なし」の空気が漂っていました。
そうしたなかで、私は大賞候補として当時アイスリボンのさくらえみ選手を推薦。その年はアイスリボンで人材育成をしつつ、NEOで高橋奈苗選手を破って二冠王を獲得し、JWPでは米山香織選手とのコンビでタッグ王者に輝くなど、団体の垣根を超えて活躍していたので、十分に大賞に値すると主張しました。
ところが…。選考委員の一人が「俺はパス」と言って、「見ていないからわからない」と投票の棄権を申し出ました。すると、「女子プロは見てないからね~」という声がチラホラ聞こえてきます。「もう女子プロの賞はなくしてもいいのでは」と発言する人までいました。
女子プロレスは暗黒期から少しずつ若い芽が出てきて、同年は週プロでも8年ぶりに女子選手(風香選手)を表紙に起用するなど、私としてはもっと伸ばしていきたいと思っていました。さくら選手を推薦した自分の意見が木端微塵にされ、かなり憤慨していたところで、柴田さんが「佐久間さんからプレゼンしてください」と助け舟を出してくれたので、一発逆転のカウンターパンチを狙いました。
「そもそも皆さんは女子プロレスの大会は取材していますか? 今年10大会以上取材したという方はいますか?」
10大会以上取材しているという選考委員は数人。これを受けて「取材もしてない人が選考するってどうなんですかね? 女子プロレス大賞の見直し以前に選考委員も見直したほうがいいかもしれないですよね」というようなことをチクリと言って、選考委員の諸先輩方をドン引きさせてしまいました。木端微塵返し!
重たい空気を察した、サムライTVの三田佐代子キャスターが、丁寧にさくら選手の活躍ぶりを選考委員の方たちにプレゼンしてくれて、なんとなく場が落ち着きます。そして柴田さんが「見ていなかったとしても、プレゼンを踏まえて投票してください」とまとめ、投票の結果、過半数を超える20票を獲得して、5年ぶりにさくら選手の女子プロレス大賞が決まったのでした。
写真が当時のノートです(字が汚くてすみません)。女子プロレス大賞のページには「三田さん、ナイス」みたいなメモのほか、ちょっとした暴言が書いてあって見せられません(笑)。若気の至り。
ちなみに私が選考委員を務めたのはこの年が最後です。念のため言っておくと、この件で外されたわけではありません。翌年に編集長辞任→BBM退社に伴いプロレス界から離れたからです。
私が選考に関わることはなくなりましたが、女子プロレス大賞は2010年以降も、毎年しっかり選出されています。現在はスターダムをはじめ、女子プロレス界も非常に賑わっています。東スポさんには、「あのとき女子プロレス大賞を除外しなくて良かったでしょ」と言いたい気分です。
人が選ぶものなので選考には賛否両論が付きものですし、価値観は人それぞれなので、結果だけが絶対ではありません。ただ、プロレスに関わるメディアの人たちが共通のテーマで議論ができるということは良いことであり、年に一度多くの媒体を巻き込んでおこなわれる東スポプロレス大賞はすごく貴重なものだと思っています。東スポさんには今後もプロレスを温かく応援し続けてもらいたいなと思うしだいです。
おわり。