“神の美酒”ピスコの話
昨年「神カクテル300」を制作した際、著者のマスターイエツネさんが「世界で人気爆発中のお酒」と紹介してくれたのが、ピスコでした。
カクテル本の制作を経て、かなりカクテルには詳しくなったとはいえ、なかなかバーに行く機会がなかったり、行ったバーにピスコが置いてなかったりで、気にはなっていたものの、味わうことができずにいました。しかし、先日ついにピスコ(ピスコ・サワー)を飲むことができました。1年の溜めが効いていたこともあり、またバーテンダーの腕が良かったこともあり、最高の一杯を味わうことができました。というわけで今回は、ピスコの話を書いてみたいと思います。
ピスコの生産地はペルーで、「ペルーの国民的お酒」と言われています。ブドウ100%でつくられる蒸留酒であり、糖質ゼロなのでお酒のカロリーが気になる方には嬉しいお酒と言えるかもしれません。
ブドウからつくられるお酒といえばブランデーです。ご存じの通り、ブランデーは樽熟成するため、できあがったお酒は樽(=木)の色がついて茶色になります。これに対してピスコはステンレスの瓶で熟成されるため、色が透明です。その美しさから、ペルーでは「神の美酒」なんて言われ方もするそうです。ちなみに昔は「ピスコ」という土器に貯蔵され、ピスコ港から出航されていたため、透明なブランデーが「ピスコ」と呼ばれるようになったのでした。
基本情報がわかったところで、今度は誕生秘話を紹介しましょう。ピスコの誕生は16世紀まで遡ります。当時のペルーはスペインの植民地。ワインの生産地として知られるスペインは、植民地のペルーにもブドウ畑をつくり、ワインを生産させました。ところが、ペルーの気候はスペインよりもブドウの生産に適して適していて、スペイン産のワインよりも美味しいワインができてしまったのです。この結果、スペインのワイン産業を圧迫するという、皮肉な結果となりました。
自国産のワインが売れないのは困る…ということで、スペインはペルーにワインの生産を禁止します。自分たちでつくれと言っておいて、都合が悪くなると止めさせる。理不尽ですね。
さて、ブドウ畑があるのにワインがつくれなくなってしまったペルーの人たちは、ブドウをつかった蒸留酒をつくろうと考えました。そこで生み出されたのがピスコだったのです。ブドウの品種を3種類以上ブレンドしたものを「アチョラード」と言い、これが美味しいピスコの条件とされます。ちなみに1種類のブドウでつくるものは「プーロ」と言い、こちらは味は劣るものの安価で手に入れることができます。
ピスコはストレートやロックで味わうのも良いのですが、その人気を決定づけたのがピスコ・サワーでした。「サワー」というと、「レモンサワー」を思い浮かべる方も多いと思うので、カクテルにおける「サワー」を少し説明します。
カクテルにはフィズ系、サワー系、ジュレップ、リッキーなど、つくり方のスタイルがあります。そのうちのフィズ系とは、お酒にレモンジュースとシロップを加えてソーダで割るスタイルのことを指します。このフィズ系でソーダがないバージョンがサワー系になります。ソーダが入っていないので、居酒屋サワーとはまったくの別物です。
ピスコ・サワーはピスコにレモンジュースとシロップ、ここにフローサーにかけた卵白を加えてシェイクでつくります。グラスに注いだ後にアンゴスチュラビターズを数滴たらして、シナモンパウダーをかければ完成。甘さっぱりしたテイストで、卵白が入っているため口当たりが楽しく、それでいてお酒をしっかり感じられるので、クセになる味わいでした。
簡単ではありますが、ピスコを紹介させていただきました。この週末、バーに行く機会がありましたら、ぜひ“神の美酒”ピスコを味わってみてください。