近代建築と私
近鉄百貨店京都店が2007年2月に閉店した。建物は惜しげも無く解体された。懐かしくさみしい気持ちが消えず店のことをあれこれ調べるうち、建物の設計者、渡辺節さんに出会った。その作品を巡るうち梅小路蒸気機関車館の美しく設計された機関庫にたどりつき、そこ居る蒸気機関車に圧倒され、鉄道ファンになるきっかけになった。近鉄だけでなく様々な渡辺節さんの建物、その他の近代建築が解体の危機にあることを知り、建築の大切さをブログで訴え始めた。
それから15年、日本全国のおびただしい数の建築たちは解体された。老朽化、再開発、経済発展の名のもとに。近代建築を残すことの価値を未だ一部の人しか理解できないこの国では、財力のある所有者が居なければたいていは壊されていく運命だ。
その残念さは計り知れなかった。鉄道車両と計りにかけても、その大切さに差は無いと思っていた。
しかし東海マロン(名古屋地区の117系)もきいろのマロン(岡山地区の117系)も、みどりのマロン(京都所属の117系6編成)も、2022年にすべて居なくなってみると、「なぜこの建物は存在しているのか、マロンがこわされたのに?」「蒸気機関車が動いている、マロンは走っていないのに?」などのありえない思いが生まれた。銀河マロン(WESTEXPRESS銀河)が走っているのに、である。そしてすべての貴重な建築に対しても申し訳ないと言っても言いきれない。楽しい鉄道の世界へ導いてくれたのに、私にはもう建築の大切さについて語れない。心は凍りつき、砂漠のように乾き切った気持ちになった。