欧州ではスキー産業も、エネルギー危機下で節約モード
ケーブルカーの速度を遅くしたり、暖房温度を低めにすることで、オーストリアやドイツのスキーリゾート産業は、エネルギー危機への適応を模索している。
オーストリアのスキーリゾート・イシュグルにある山岳ケーブルカー会社、シルヴレッタ・ゼイルバーンAGのギュンター・ツァンゲルCEOは、「エネルギーの大消費地である我々が、厳しい目で監視されている」と言い切る。オーストリアで4番目に大きなスキー場にある同社のA1ケーブルカーは、1時間に最大3,440人の乗客を運び、高出力モーターを8台搭載している。
同社が「パワースポット」と表現する各リフトのエネルギー消費量は大きく、現在のヨーロッパのエネルギー危機下の中で、批判を浴びる材料になる。オーストリア政府は最近、省エネ計画「ミッション11」の一環として、市民にエネルギー消費量の11%削減を呼びかけた。
その結果、イシュグルでも今シーズンから節電を始めている。エネルギー危機の中で、シートヒーター付きのケーブルカーで秒速6メートルで上昇し、人工雪で覆われたゲレンデを滑降することが、どれだけエネルギー効率の視点で良いことなのか。ツァンゲルCEOもここに矛盾を感じ、「私たちに期待されていることはエネルギー貢献だ」と言う。
そこで、ケーブルカーは速度を落とし、照明の使用も減らし、座席の暖房を切る。「こうした節電施策はよくやることだが、今年は特に気を遣う」とツァンゲルCEOは言う。同社が所有するスパでは、屋外プールは冷えたまま放置する。「気温がマイナス20℃のときに30℃以上のお湯を沸かすのは、単なるエネルギーの過剰消費だ」と彼は続け、「約10%の節約なら、お客様の快適さを犠牲にせずにできる」。
特にウィンタースポーツ業界では、大量のエネルギーを消費して人工雪をつくることが問題視されている。イシュグルでは、人工雪製造機が全エネルギー需要の約40%を占めていると、ツァンゲルCEOは推測する。だが、スキーをするにはゲレンデを十分に雪でカバーしなければならないので、この領域ではほとんど節約できない。
オーストリア連邦経済会議所のケーブルカー協会によると、オーストリア国内の全ケーブルカーの電力需要は、同国の総エネルギー消費量のわずか1.2パーセントに過ぎないという。一方で、ウィンタースポーツ産業は12万5900人の雇用を生み出し、ウィンタースポーツ愛好家は年間112億ユーロの売上を生み出す。「観光業に雪づくりは欠かせない」と語るのは、オーストリア人民党員で業界団体会長のフランツ・ヘルル氏だ。「製造業にベルトコンベアが重要であるように、ゲレンデは冬の観光に欠かせないものだ」。
イシュグルから50キロ離れたドイツ国境の向こう側のオーバーストドルフでも同じような議論がなされている。地元のベルクバーン・リフト&ケーブルカー企業のヘンリック・フォルペルトCEOは、「ベルクバーンの電力消費量全体に占める割合は極めて低いが、地域における付加価値は極めて高い」とし、エネルギー消費に関する議論は「非常に感情的なものだ」と言う。
「私たちの会社が使うエネルギーは、技術的にも社会的にも効率の良い投資だと思う」とフォルペルトCEOは言うものの、同社では冬場のコスト削減計画も立てている。オーバーストドルフでもイシュグルと同様、乗客が許す限りケーブルカーをゆっくり走らせ、座席のヒーターは切ることにしている。
さらに一歩進んで、ドイツ最高峰のツークシュピッツェの麓にあるガルミッシュ・パルテンキルヘンでは、登山鉄道会社「バイエルン・ツークシュピッツバーン」が運行し、ガルミッシュ・クラシックスキー場などのゲレンデにスキーバカンスを楽しむ人たちを輸送している。バイエルン・ツークシュピッツバーンの広報担当のヴェレナ・タンザール(Verena Tanzer)氏によると、同社はこの冬、雪をつくる費用を節約し、人工雪を使うのは、どうしても必要な場所のみに限定する予定だという。
エネルギー消費量の削減への貢献は当然のことだ、と彼女は考える。「私の印象では、レジャー産業全体が精査されているように思う。私たちの業界は社会システム上の重要性では劣るため、試練に立たされている」と言う。社会からの厳しい監視の目があることを考慮し、この冬は、スキー場のバーにある通常の屋外ヒーターさえもつけないことになった。「マイナス15℃の中でヒーターの下に座るなんて、純粋に贅沢な話だ」と言う。これにより、計10%の省エネ効果が見込まれるという。
この冬、スキーヤーは、いつもよりもさらに暖かい服装をしなければならないだけでなく、費用面でもより多く支払わなければならない。ガルミッシュ・パルテンキルへンでは、今年からスキーパスが10%ほど値上げとなる。さらに、渓谷にある駐車場も無料ではなくなる。タンザール広報担当によると、これらの措置はいずれもエネルギー危機とは直接関係がなく、以前から計画されていたという。
オーストリア・ケーブルカー協会のフランツ・ホール(Franz Hörl)氏によると、今回の値上げは「通常のインフレの範囲内」だという。「もし、高いエネルギーコストに基づいて新価格が設定されていたなら、価格はもっと大幅に上昇しているよ。でもここは、特に家族連れや子供たちが来る場所だということを考えると、そうした大幅な値上げを防ごうと、業界が明確にコミッしたんだ」と付け加える。
イシュグルのツァンゲルCEOは、今年、スキーパスの価格を大幅に引き上げた。「インフレ率を1対1では転嫁できていない」と彼は言う。彼の会社では、エネルギーコストが4倍になった。「だから価格に反映させなければならない」。今年、スキー客はゲレンデに行くのに通常より11〜13%多く払うことになる。